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  去る9月に東京・神保町で開催された私の講演会『過去に学び、未来を描く。』 (主催 子どもの本・九条の会)の様子を、今月発行された会報紙『9ぞう れぽーと』(28号) が伝えてくれています。

 

  情報を得るのみならず思考を深めるために、本はなくてはならない存在です。テレビやインターネットがメディアの主流となった現代においても、その重要性は何ら変わることはありません。特に未来を担う子どもたちが、どのような本と出会い、読み、そして理解するか、は極めて重要な問題です。

 

  私が小学生だった頃にはまだ、一兵卒として中国戦線に赴いた経験を持つ先生がいらっしゃいました。教室では、自由放任主義を貫いておられましたが、たった一度だけ、私を含むやんちゃな男子が、教育実習にやって来た若い女の先生の授業で大騒ぎしてしまったことがありました。顔を紅潮させて駆けつけた彼は、「廊下へ出ろ!」と私たちを一喝し、「歯を食いしばれ!」と怒鳴ると、端から順番にビンタを喰らわしました。その時、先生の頬が涙で濡れていたことを、私は今でも忘れることが出来ません。彼もまた、不器用な一日本国民だったのでしょう。

 

  今、子どもたちに戦争の残忍さや平和の尊さを教える立場の先生方、いや、教育委員会の方々にも、戦争体験はありません。どうしても書物から情報を得るしかない。教師や親たちがどの本を選ぶか、によって子どもたちの世界観、人生哲学の起点は定まります。

 

就学児童向け書籍も執筆して来た私は、責任の重さをひしひしと感じています。私は、果たして子どもたちに良書とは云わないまでも、気づきの種を蒔けているだろうか。誰も、もう私にビンタはしてくれません。その答えは、子どもたちが成人し、社会人として独り立ちし、自らの価値観を確立した時になって、初めてわかるのでしょう。

 

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