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広島市立基町高校・創造表現コースの「次世代と描く原爆の絵」プロジェクトでは、どのような作品が描かれているのか教えて欲しい、観てみたいといった声が多数寄せられているため、所蔵されている広島平和記念資料館の許諾を得て、過去13年間に131名の高校生たちによって描かれた152点もの作品群の中から数点を順次、(拙著『平和のバトン〜広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶』に収録されていない作品を中心に) ここでご紹介させて頂いています。

 

『お母ちゃーん!』 作/中川雛 所蔵/広島平和記念資料館 (2017年度)

 

  原爆による二次火災から必死の思いで逃げていた被爆体験証言者の岡田恵美子さんは、爆心地から2.8キロ離れた陸軍東練兵場付近で、倒壊した柱に挟まれて動けなくなった幼い少女と出会います。少女は、岡田さんのモンペを摑んで、狂ったように「お母ちゃーんお母ちゃーん!」と叫んでいたと云います。岡田さんは、あの時の少女の目を、今でも決して忘れることが出来ず、いつも「ごめんなさい」と心の中で手を合わせていらっしゃいます。燃え盛る炎の色を想い出すのが嫌で、赤い夕焼けは見たくないとも。

  中川さんは、鬼の形相のような少女の顔を描くために資料を集め、繰り返し岡田さんの意見を伺いました。最初は、どこか遠かった少女の声が、やがて徐々に聞こえ始め、光景が鮮やかになるのを感じたと云います。岡田さんの体験に、確実に近づいて行く感触があり、それにつれて中川さんは、改めて戦争の悲惨さと愚かさを認識したのでした。