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  かつて米国の軍産複合体の取材をしていた折に知り合った米ジャーナリストが、数年前に話していたドキュメンタリー映画が日本でも初公開されていると聞き、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにて鑑賞して来ました。

 

『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』(原題: Shadow World) は、2016年に制作された国際武器取引の実態をつぶさに描いた見応えのある労作です。イラン・コントラ事件(1986年)で明るみとなった軍事超大国の為政者たちと武器商人との癒着や、サウジアラビア王国を始めとする国を挙げての武器取引の実態を、膨大かつ綿密なリサーチに基づき映像化しています。

本作では、既に周知の事実となっている80〜90年代を中心とした武器ビジネスに焦点が当てられていますが、やはり実際に商談に関わっていた政府・軍関係者や武器商人、ジャーナリストらの証言には説得力があります。特に、米国防省を民営化するといったアイデアが取り沙汰された経緯や、今や政治学(Political Science)ではなく、政治工作(Political Engineering)の時代になっている、といった認識には思わず背筋が寒くなりました。

 

冷戦期に、武器ビジネスは巨大産業へと発展して行きます。ところが冷戦が終結し、マーケットは一気に縮小した。そこでテロリストを誕生させ、世界各地に紛争地帯を産み出すことで、正規軍のみならず敵対勢力にも”平等に”分け隔てなく武器を供給する新たなビジネス・モデルが構築された。いわゆる多様化・多極化が現在の混沌の一因であるとの思いを強くしました。

 

こうした中で思い起こされるのが先頃、発効された核兵器禁止条約(TPNW)の重要性です。先に「核なき世界の夜明け 【後編】」(1月23日)でも綴ったように、核兵器は「使用しないために製造する」といった壮大なパラドックスを抱えています。武器商人にとっては”商品価値の乏しい商品”を戦場という名の”市場”において活性化すべく、米国は低出力核弾道「W76-2」を開発・実戦配備し、中ロも同様の実験を進めていると云われています。ところが核兵器は通常兵器とは異なり、”消費”すれば終わり、というわけには行かない。使用後に生じる人体や環境に対する悪影響はもちろんのこと国際世論の反響も計り知れないため、なかなか買い手が見つからない。極めて”回転率”の悪い商品です。ここに核兵器廃絶のヒントがあり、活路が見出せます。

 

この作品は、南アフリカ共和国でアパルトヘイト撤廃運動を主導したアフリカ民族会議(ANC)に所属していた元・下院議員アンドルー・ファインスタイン氏の著書『兵器ビジネス マネーと戦争の「最前線」』(The Shadow World: Inside the Global Arms Trade) を下敷きに、ベルギー出身のヨハン・グリモンプレ監督が手掛けています。

独特の編集手法によって畳みかけるようにストーリーが展開して行くため、国際政治・軍事に関する一定の知識を持たない観客にとっては、スピードについて行くのが少々難しいかも知れません。また、主にテレビニュースを中心とした記録映像と顔のアップを多用したインタビュー映像によって構成されているため、正直なところ劇場よりはテレビもしくはネット放送に向いている、といった印象を受けました。映像技術・演出手法の面からも、ドキュメンタリー”映画”の難しさを考えさせられた作品でした (こちらのパンフレットをクリックすると公式サイトにアクセスします)。

 

シアター・イメージフォーラムでの上映は今月19日まで。その後、順次全国でロードショー公開される予定です

 

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