20200903.jpg
 

 

人類が営むありとあらゆる行為は(崇高な愛を除けば)、経済によって突き動かされています。戦争も、そして平和も例外ではありません。私たちが住む資本主義社会においてこれは、避けては通れない厳然たる事実です。

資本主義の最大の欠点は、ゴールが設定されていないことにあります。欲望の到達点が示されていないため、”ゲーム”のプレーヤーたちは混乱し、狂瀾し、疲弊し、やがて自滅してゆく。共産主義とて同じことで、私は世界各国でその大義名分の成れの果て、死屍累々たる有様を自ら目撃して来ました。

こうしたマーケットメカニズムに基づいた現実に目を背けることなく、真摯に向き合わなければ、平和を為し得ることなど出来ません。これまでの平和運動、反核運動の弱点がここにあります。観念論ではシステムを変革するどころか、人心を捉えることさえ出来ない。そうした中、非常に興味深い極めて現実的なアプローチが産声を上げています。

 

そもそも軍事というものは、膨大な資金を要する、人間の果てなき欲望を喚起する近代における花形産業です。ビジネスマインドで捉えれば、(特に核兵器開発は)結果よりもプロセスにうま味がある。事実、世界全体の軍事支出額は2019年の段階で1兆9170億ドルにも上り、過去最高額を更新しています。こうした軍事支出の伸びを主導しているのは言うまでもなく米国、中国、インド、ロシア、サウジアラビアといった軍事大国の面々で、世界全体の62%を占めています(ストックホルム国際平和研究所調べ)。彼らは、一般市民が「軍拡反対っ!」と声高に叫んだところで、聞く耳を持つような心優しき事業化・投資家たちではありません。

 

新型コロナウイルスが及ぼしている影響のひとつが、保健医療関連支出を中心とした「人間の安全保障(Human Security)」に対して各国政府は、もっと支出すべきだといった批判の声の高まりだと云えるでしょう。パンデミックは貧富の差などお構いなし。遠慮会釈なく襲いかかることから、こうした言説は万人に対して説得力があります。安全保障関連費の約100倍にも達する軍事支出を削減し、保健医療費に充てるべきだ、というわけです。もちろん、非常事態に則した暫定処置に過ぎません。しかしながら、人間というものはなかなか現金なもので、削減しても何ら問題が生じなければそれで良いじゃないか、となるでしょう。

中でも、年間1000億ドル以上が投資されている核兵器産業は、無駄な支出の筆頭格に挙げられています。そもそも使用する可能性が極めて低い核兵器に毎年、何10兆円もの資金を投資するだけの意味があるのか? という、極めてシンプルかつ真っ当な経済感覚です。「軍拡」というやたらと勇ましい観念論も実のところ、市場経済の前には甚だ脆弱だということです。一般家庭でも、もしもの時にと買い置きしておいた食品を腐らせ、無駄にしてしまうことはよくある話です。

そこで2016年に核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)やバーゼル平和事務所が、核兵器予算の削減や核兵器製造に関与する企業からの投融資撤退を奨励する「ムーブ・ザ・ニュークリア・ウェポンズ・マネー(Move the Nuclear Weapon Money」キャンペーンをスタートさせました。

 

軍事産業は、主に国家予算によって賄われます。とは云え、兵器開発製造会社も企業体である以上、利益を上げるのみならず、金融機関から多額な融資を受けなければスムーズな経営は難しい。現在のような全世界的不況下においては尚更のことです。

そこに目をつけた同キャンペーンは、企業に対して核兵器産業から撤退し、その資金を貧困の撲滅や気候変動対策を始め、雇用の創出や福祉、教育の促進など、つまりは人間・社会・地球環境の持続可能な発展(SDGs)のために再配分するよう求めています。しかも、各国の金融機関に対しても、核兵器製造企業への融資を差し止めるように呼びかけています。これは正しい。極めて有効な”反核運動”です。

事実、こうした取り組みは功を奏し始めており2017年以降、世界94の金融機関が核兵器開発製造企業への投融資を停止したと報じられています。我が国でも、共同通信のアンケート調査によれば、三菱UFJ銀行や三井住友銀行、みずほ銀行といった3メガバンクを始め16行が核兵器を運搬するミサイル製造などに携わる企業への投融資を自制する指針を定めていると回答しています。また、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約についても高知銀行や大分銀行など9行が支持を表明しています。

昨今は、コーポレートガバナンスの有無が重要視され、公益性に配慮する企業でなければ、企業活動は厳しい時代となっています。こうした新たな時代を迎え、儲かるからと云って非人道的兵器を製造するとは何事か。顧客からこうした声が上がれば企業イメージは損なわれ、融資が止められるともなれば死活問題に直結します。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、というわけです。

 

   通常兵器の開発・製造については適用することが困難な方策ですが、少なくとも核兵器においては遅かれ早かれ、情緒的な反核運動とは異なる経済的理由から削減が進むことが予想されます。それもこれも被爆者の方々の長年にわたる草の根運動がベースにあることは言を俟ちません。しかしながら、核兵器廃絶に向けた戦略も曲がり角に差し掛かっている、時代に則した”共通言語”を創造する必要性に迫られていることは確かです。

市場原理が核兵器廃絶を主導する。それは、必ずしも人間の”善”から出たものではなく、”欲”が育むモチベーションなのかも知れません。それでも、ここで善悪を問う必要も意味もないでしょう。結果がすべて。戦時における人類史上初の原爆投下から75年。大切なことは、時代は、確実に動いている、ということです。

 

ムーブ・ザ・ニュークリア・ウェポンズ・マネー(Move the Nuclear Weapon Money)

 

 

このページのトピック