年若いジャーナリストに、取材のコツを尋ねられることが屡々あります。(私の如き一匹狼がお教え出来ることなどさしてありませんが…)そんな時、私は「一度、社名を名乗らず、名刺も持たずに取材してみろ」とアドバイスしています。

   要は、一記者としての自分の限界と可能性を自ら体得する、プロフェッショナルとしての自分の現在地を、上司や同僚から云われるのではなく、あなた自身が知ることから始める、ということです。メディア、しかも大手マスメディアの記者ともなれば多くの方々が一も二もなく取材に応じて下さいます。それは、云うまでもなくあなたが所属している媒体に対する信頼であり、あなた自身の実力が必ずしも評価されているわけではありません。

 

   例えば私が、キー局や全国紙、雑誌から取材を受ける際、契約記者さんが来られることも少なくありません。その方がこれまでどのような記事を書き、番組を作って来られたかはまったくわからない。しかしながら、その媒体に発言が載る、という前提で快く取材をお受けし、対応します。もしも私と同じような立場の書き手の方が来られれば、取材・執筆の意図をしっかりとお伺いしてから取材に応じるかどうかを判断するでしょう。理由は、こちらの意図を誠実に伝えて頂けるかどうかの確認であると同時に、組織に属していない方だからこそお伝え出来る情報もあるからです。

 

   名刺を持た20200531-1 .pngずに取材をするともなれば、様々な場面に出くわすことでしょう。けんもほろろに取材を拒否されるケースも少なくないでしょう。交換条件を提示して来る方もいらっしゃるかも知れません。女性であれば(いや男性であっても)時には手を握られるかも知れません。しかしながら、そうした一連の体験から多くを学ぶことが出来ます。

   どうすれば取材を受けて頂き、気持ち良くお話をして下さるだろうか。自分なりに工夫するでしょう。勉強もするでしょう。人間の本性を垣間見ることも出来るかも知れません。また、文責の重みを身を以て体得し、「言葉」に対する感受性が高まるはずです。そうした過程で、自分に最も適したテーマを見つけ出し、あなたならではの取材手法を編み出すことが出来るかも知れない。

 

   私自身、これまで数多くの優れた記者さんにお会いする機会を得て、触発されて来ました。こうした方々は、テレビのコメンテーターをされているとか何々のジャンヌダルクと持て囃されているような方々ではまったくありません。人々の想いを大切に抱き締め、地道に取材を行い、真に意義のある記事、番組を作って来られた名もなき方々です。これからのジャーナリストは、媒体に属していようがいまいが、「志」を持ち、しっかと「個」を保っているかどうか。ゆるくはない世界です。これがなければ生き抜いては行けないでしょう。

   この手法、新人記者教育に採り入れてみてはいかがですか? マスメディアの皆さん。