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今月18日、広島県議会の一般質問において湯崎英彦知事は、被服支廠倉庫について「(有識者会議の委員から)国指定の重要文化財級の価値がある旨の意見が示されたことから、現段階では建物解体を俎上に載せることは適当ではない」との判断を明らかにし、県が提示する現在の「1棟保存 2棟解体」案の見直しを含め、再検討する考えを示しました。湯崎知事が現時点において、どのような構想を持っているのかはわかりませんが昨年来、被服支廠倉庫の全棟保全については最悪のケースを想定し、極めて悲観的な見方をしていた私にとっては嬉しい驚きであり、まずは湯崎知事の英断を讃えたいと思います。

 

今回、湯崎知事が被服支廠倉庫保全の再検討に踏み切った最大の理由は、これにかかるコストが大幅に軽減されたからに他なりません。4年前の調査よりも躯体の強度が高いといったリサーチ結果が得られたため、かかる費用も約半分に圧縮される目処が立った(それでも前回のこの連載で示したように、4棟保全ともなれば総額で70億円前後の工事費は必要となります)。これを「具体的な活用方法」が示されれば「費用負担を前提とした協議に参加する」と表明した国と、先月15日に松井一実市長が「所有者が責任を持つ部分、利用の観点から市が費用負担する部分などの整理が出来るのではないか。財源問題を入れながら見直す局面だ」と発言した広島市との間で、いかに管轄範囲を仕切り、費用分担するかについて今後、議論が交わされるものと思われます。

 

ここで注目すべきは、湯崎知事が”重要文化財”に言及している点です。これは国の重要文化財(建造物)「近代/産業・交通・土木」を指していることから、まずは簡単に内容を確認しておきましょう。

重要文化財の指定基準は、(一) 意匠的に優秀なもの、(二) 技術的に優秀なもの、(三) 歴史的価値の高いもの、(四) 学術的価値の高いもの、(五) 流派的または地方的特色において顕著なもの、のいずれかに該当し、各時代又は類型の典型となるもの、と定められています。被服支廠倉庫は、この内、(一)以外に該当します。

 

これまで国の重要文化財に指定された建造物の内、”旧軍関連施設”は、現在は石川県立歴史博物館として再利用されている旧金澤陸軍兵器支廠(石川県)と舞鶴旧鎮守府倉庫施設(京都府)のみとなっています(近代/その他)。これらはいずれも数棟から成る2階建ての煉瓦造りで、被服支廠倉庫とは似通った構造となっているため、被服支廠倉庫も重要文化財に指定される可能性は少なくないと云えるでしょう。

 

このように国指定の重要文化財が引き合いに出された事由は、指定された場合、「修理」については補助対象経費の50〜85%、「防災・環境保全」の50〜85%、「管理費」についても補助対象経費の1/2が国から補助されるだけではなく、様々な税制優遇が受けられるといった財政的メリットからと云って差し支えないでしょう。

この方向性について私は、世界遺産登録については昨年3月8日の投稿で、ネガティヴな意見を唱えました。その理由は「利活用法には様々な制約が課せられるため、民間の力を借りることは断念しなければならない」というものでした。これは国の重要文化財であっても同じです。重要文化財の場合は、”現状維持”が原則であるため、「活用のために必要な現状変更をどこまで許容するかは、建造物の特性や、文化財的な価値の所在などを考慮し、個別に判断される」とされてはいますが(文化庁 文化財第二課 文化資源活用課)、他の例を見ても基本的には原型に「手を加えない」といった安全策が取られます。

 

重要文化財に指定されることで、利活用法には大きな制限が課せられ、自由な発想で当該建造物を再生させる範囲は限りなく狭まります。そのため被服支廠倉庫の場合、重要文化財となった暁には広島市の管轄下へ移し、「広島平和記念資料館・別館」といった位置づけにするのが、結果的には最も収まりが良いと云えるでしょう(周知の通り、すでに同館は国の重要文化財に指定されています)。

こうすれば、私が提起して来た被服支廠倉庫を”負の遺産”としてだけではなく”正の遺産”として再生し、広島の新たなアイデンティティを構築する場を創り出す、といった可能性は潰えますが、ひとまず全棟保全の道筋は見えて来ます。過去、現在のみならず広島の未来を見据えた時、果たしてどのような利活用法が適切なのか。これからが正念場であることに変わりありません。広島県民の知恵と発想、意志決定を引き続き注視して行きたいと思います。

 

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