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東南アジアのミュージック・シーンでは、インドネシア共和国のポップスを私は最も高く評価していたのですが、ミャンマー連邦共和国も完成度の高い楽曲を数多く生み出していることに、恥ずかしながら最近になって気づかされました。

同国のポップスは1970年代に、英国を中心とする西側のポピュラー・ソングの影響を受けて産声を上げましたが、ネ・ウィン大統領率いるビルマ社会主義計画党(BSPP)の軍事独裁政権下のテレビやラジオでは”公序良俗に反する音楽”の放送は禁じられていました。それでもアーティストたちは、プライベートスタジオで密かに録音し、店頭で直接販売することで検閲を逃れ、ポップスは若者たちの間に広く浸透して行きます。80年代に入るとロック(同国では”ステレオ”と呼ばれています)が台頭し2000年以降、検閲が緩和されたことでミャンマー・ポップスは一気に華開きました。

 

ここに『ポーン・フィン』(Pone Pyin)という昨年発売されたラブソングがあります(作曲 V No Htun)。歌っているのはヘビーメタル系ロックシンガーとして90年代に人気を博したコニー(Connie)さん。彼女の円熟した歌いっぷりと快いコード進行とが相まって、魅力的な一曲となっています。残念ながらビルマ語の歌詞は理解出来ませんがPVから、教師と女子高生との淡い初恋を描いた作品であることはわかります。

 

このPVを観て、気づかれたことはありませんか? そう。主演女優さんは4月6日のフェイスブックでお伝えした人気女優のパイン・ピョー・トゥ(Paing Phyo Thu)さんです。1990年にヤンゴンで生まれたトゥさんはヤンゴン第1医科大学を卒業後、2017年に映画『Mi』でデビューを飾り、同年のミャンマー・アカデミー賞助演女優賞を受賞。同国で最も人気のある清純派女優として知られています。

2月1日に勃発した軍事クーデター以降、市民的不服従運動(CDM)に積極的に参加し、SNSでも国軍を痛烈に批判して来たため4月2日、国軍構成員や政府職員の職務に対する意欲や行動、規律などに悪影響を与えた者、国民に恐怖を与えたり政府職員に犯罪行為を扇動したり、偽のニュースを流布した者」として、刑法505条により治安当局によって拘束されました。

 

 

「逮捕状が出たからと云って、拘束されるわけではない。

なくても、彼らは捕まえたい者がいれば、家のドアをぶち壊して不法に逮捕している。

デモに参加したからと云って、撃ち殺されるわけではない。

彼らは殺したい者がいれば、家にいても5歳の子どもでさえ殺している。

逮捕状があろうがなかろうが武力で国民を弾圧し、殺害している軍事独裁者がいる限り、

私は反対し続けます。民衆の蜂起を絶対に、絶対に成功させなければならない」

(4月3日付のトゥさんのフェイスブックより)

  私は、トゥさんの瑞々しい横顔に思わず、若き日の吉永小百合さんの面影を重ね合わせていました。

 

彼女のフェイスブックは、4月19日の日付で、止まっています。そこには、

「私が望むことは、悔いのない人生を送ること。大変なことになるのはわかっているけれど、

そんな人生でありたい」と、綴られていました。

 

 

  『ポーン・フィン』を歌ったコニーさんも、4月3日に同じく刑法505条によって逮捕されています。検閲時代を生き延びた百戦錬磨の歌姫。本物のロックンローラー。心あるアーティストたちがひとり、またひとりと、囚われの身になっています。フィクションと現実が交差し、図らずもこの作品は冷静に観ることが困難な壮絶な”記録”となっています。

アートは、私たちが本当の意味で「生きる」ためにかけがえのないもの。自由の象徴です。芸術の価値をしたり顔で論じるのも、値付けするのも良いでしょう。しかしながら、この決して狭くはない世界の片隅では、自由と民主主義を勝ち取るため、命を賭けて闘っているアーティストがいることを忘れてはなりません。私たちが私たちであるために、彼らは身体を張って”真実”と対峙しています。「芸術」を唯一の「武器」として。

 

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