
圧倒的な軍事力と情報戦闘力いわゆるインテリジェンスを有する米軍とイスラエル国防軍によるイラン・イスラム共和国に対する軍事攻撃を迎え撃つべく、精鋭軍事組織イスラム革命防衛隊 (IRGC) は数年前から綿密なシミュレーションを構築して来ました。米軍のステルス戦略爆撃機 B-2が投下する大型貫通爆弾(GBU-57/B MOP) や誘導ミサイル駆逐艦から発射される巡航ミサイル トマホーク (BGM-109) から成る第一波の空爆により、数日足らずで制空・制海権が奪われることは想定内であり、停戦交渉に持ち込むまでのその後の数週間をいかに持ち堪えるか。作戦立案に際しては、同じく軍事大国であるロシア連邦軍と4年余りにわたり戦闘を継続しているウクライナ軍の持久戦法が大いに参考になったものと思われます。
IRGCが敢えて主戦力として”抜擢”したのが徘徊型兵器とも称される自爆型ドローンでした。今回の軍事衝突は、戦略的かつ本格的に自爆型ドローンが用いられた初めての軍事作戦として歴史にその名を留めることでしょう。
近代戦においては初動の成否が趨勢を決します。そのため米軍は作戦開始から72時間以内にイラン・イスラム共和国の1700以上の標的、IRGCの統合司令部や航空宇宙部隊の司令部を始め弾道ミサイル関連施設や防空システム、海軍の艦船や潜水艦、対艦ミサイル基地に対して大規模な空爆を行いました (4日時点で2000カ所以上)。
米中央軍司令官ブラッド・クーパー海軍大将は5日の記者会見で、「初日と比較してイランによる弾道ミサイルの攻撃が90%、無人機の攻撃が83%、それぞれ減少した」と豪語して見せました。米軍にしてみれば中規模クラスの作戦行動に過ぎませんが、それでも最新鋭の戦闘機ならびに武器を投入した最初の100時間で米軍が費やした戦費は37億ドル (約5838億円)、米国防総省の試算によれば最初の6日間に要した作戦費用は113億ドル (約1兆8000億円) を超えたと見積もられています。
一方、IRGCは開戦翌日の今月1日から、周辺諸国にある米軍基地内のレーダーシステムに向けて集中攻撃を仕掛けています。カタール国のアル・ウデイド基地に設けられた早期警戒レーダー「AN/FPS-132」やアラブ首長国連邦 (UAE) のアル・ルワイス米軍基地にあるTHAAD(終末高高度防衛)のレーダーシステム「AN/TPY-2」、ヨルダンのムワッファク・サルティ空軍基地のTHAADレーダー「AN/TPY-2」も破壊されています。
「AN/FPS-132」は最大で5000キロ離れたミサイルも捕捉・追跡出来 (価格は約11億ドル)、THAADレーダーも弾道ミサイルを迎撃する際の要となるセンサーであるため (約5億ドル)、IRGCが発射する弾道ミサイルや自爆型ドローンが米軍の防空網を掻い潜ってイスラエル国を攻撃する軌道を開いたとも云えます。つまり米軍は、僅か数日間で1兆円近くの損失を計上し、更なるリスクも抱え込むことになりました。

イラン製自爆型ドローン「HESA・シャヘド136」。全長3.5メートル、翼幅2.5メートルのコンパクトな機体に50キロの弾頭を搭載しています。
こうした空中戦におけるゲリラ戦法の中軸を為しているのが、イラン・イスラム共和国のシャヘド航空産業が独自に設計・開発した自爆型ドローン「HESA・シャヘド 136」です。この長距離攻撃型無人機には2ストローク4気筒ピストンエンジンが搭載されており、航行速度は時速185キロと決して高速とは云えないものの (航続距離は2000キロ)、海上すれすれに飛行し、数10機が群れを成して襲いかかるため、どれだけ撃墜してもわずかな機体が防御網を突破し標的物を破壊します。ドローンの製造工程は小型ボートと同程度であるため特別な製造工場は必要とせず (日産500機。IRGCは約8万機をストックしていると見られています)、ミサイルのような専用車両がなくとも、ピックアップトラックの荷台からでも発射出来るため機動性にも優れています。
何よりも大きいのはその価格です。2万〜5万ドル (約300〜800万円) と格安であり、これを迎撃するパトリオット PAC-3MSE迎撃ミサイル (約6億円) やイスラエル国防軍のC-RAM (対ロケット弾迎撃装備) のアイアンドーム防空システムに使用されている「タミル」でさえ約1200万円もすることから費用対効果は計り知れません。まさに戦況を逆転させるゲームチェンジャーと云って良いでしょう。
精密性と低コストを両立させた革命的兵器である「シャヘド 136」はロシア連邦軍にも供給され、やがてロシア連邦軍はこれを模倣した改良型「ゲラン」を製造。ウクライナに対する軍事侵攻にこれまで5万7000機以上を投入し、ウクライナに甚大な損害をもたらしています。
また、「シャヘド 136」に対抗する形で米軍のスコーピオン・ストライク任務部隊 (TFSS) が投入したのが、米防衛企業スペクトルワークスが開発・製造した低コスト無人戦闘攻撃システム「ルーカス」(LUCAS) です。実はこれも「シャヘド136」の模倣品で、1995年 (平成7年) に実戦投入された無人攻撃機「RQ-1/MQ-1 プレデター」や「MQ-9リーパー」は3000万ドル (約47億7000万円) に取って替わる形で今回、初めて実戦投入されました。
ウクライナのロシア連邦に対する徹底抗戦が「核抑止力」を無力化したように、今回の軍事衝突は、様々な側面で戦闘の常識を塗り替えつつあります。牛の角を蜂が刺す。例え安価な武器であろうと、文字通り”蜂起”すれば軍事大国にも伍して戦えることを証明して見せました。

米国製の低コスト自爆型無人機「ルーカス」。「HESA・シャヘド136」を参考に設計されました。
紀元前550年に古代オリエント世界を統一したペルシャ帝国の末裔であるイラン・イスラム共和国は、中東諸国の中でも極めて誇り高い国家として知られています。強大な東ローマ帝国でさえサーサーン朝ペルシャ帝国は攻め落とせず、1980年代には米国のみならずソビエト社会主義共和国連邦 (現・ロシア連邦) や中華人民共和国からも軍事支援を受けたサッダーム・フセイン大統領率いるイラク共和国もイラン・イラク戦争 (第1次湾岸戦争) で勝利を収めることは出来ませんでした。
軍事の専門家であれば、米軍が地上部隊を派遣すれば戦闘は泥沼化し、ベトナム戦争やアフガニスタン紛争の再来となることは容易に予測出来ます。ドナルド・トランプ米大統領の熱狂的支持層で米国第一主義を掲げるMAGAも他国における紛争介入には懐疑的であり、戦闘が長期化すれば国内世論が割れる可能性もあります。焦点はすでに、”勝利宣言”したトランプ大統領がいつ、どのような形で”名誉ある撤退”を決断するか、に移りつつあります。













































