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 私が留学していたペンシルベニア州フィラデルフィアは、全米第5位の都市。人種別の人口比率ではアフリカ系米国人が43.4%に上り(2010年度の国勢調査)、米東海岸に位置する大都市の例に漏れず、アフリカ系米国人が住民の半数近くを占めていました(私が滞在していた当時は、ウィルソン・グッド市長がアフリカ系米国人として初めて同市の首長を務めていました)。

 母校テンプル大学のキャンパスは市中心部、いわゆるインナーシティにあったため、周囲はスラム街に囲まれ、夜中に乾いた銃声が聞こえることも珍しくはありませんでした。いつも利用していた近所のスーパーマーケットの顧客は8割方がアフリカ系米国人。当初、驚いたのは誰も現金で支払いをしていなかったことです。クレジットカードなど持てるはずもなく、殆どの顧客がフードスタンプを利用していました。フードスタンプとは、低所得者層向けの補助的栄養支援プログラムによって支給される金券です。こうした決してゆるくはないエリア(Tough Neighborhood)で学生生活を送っていただけに私は、米国におけるアフリカ系米国人の過酷な現実を身を以て知り、絶望的な想いに駆られていました。

 

 ミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイド氏が警察官によって殺害され、アフリカ系米国人に対する差別に抗議する声が世界中で巻き起こっています。移民国家において唯一、自らの意志で海を渡って来なかった人々。奴隷貿易という負の歴史は、先住民族であるネイティヴ・アメリカンの処遇と併せて米国が、米国憲法の理念に則りどうしても解決しなければならない根源的な問題です。

 

 2005年に発表されたこの曲は、ヒップホップの女王リル・キムの問題作『Lighters Up』。ジャマイカ訛りのラップで、生まれ育ったニューヨーク ブルックリンのベッドフォード=スタイベサンド地区の荒んだ日常を綴ったこの曲のPVにも、白人警官が登場します。警察官によって射殺された容疑者は1,004名(2019年)。これは先進国では抜きん出た数字です。アフリカ系米国人に対する警官による暴行は、今に始まったことでも、特別なことでもない。建国の地フィラデルフィアでも何度も目の当たりにしました。リルは、この曲では珍しく放送禁止用語を封印し、叫びます。「灯をともせ!」と。

 

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