20240423-1.jpg
こちらは私の米大学卒業アルバムから。いかにもアメリカンなライティングと、斜め上に向けられたこのアメリカンな目線っ!

 

某知事の学歴詐称疑惑が再び世間を騒がせています。公職選挙法によって選ばれる公職者に立候補した人物が、選挙公報に虚偽の経歴を掲載すれば法律違反に問われます (第235条)。こうした学歴詐称は公人に限らず、学歴を重んじる我が国では屡々、人格否定を引き起こすことにもなります。

特に海外で取得した学位ともなれば、真偽のほどは確認し辛く厄介なことこの上ない。私自身、米国の大学を「卒業」しているだけに (学士課程: The Degree of Bachelor of Arts)、善くも悪くも海外の高等教育機関に対する日本人の無理解は、幾度となく経験して来ました。

 

まずもって、教育制度は各国・地域によって異なるため、十把一絡げに語るわけには行きません。但し、こと米国に関して云えば極めて明解で、学生課に問い合わせれば忽ち「卒業」の有無は確認出来ます。成績評価 GPA (Grade Point Average) はもちろんのこと、何なら担当教授の推薦状も半永久的に保管されています。

実のところ米国は、日本とは比べものにならないほどの学歴偏重社会です。3億3,500万人もの人口を擁する他民族国家であるだけに、それこそ”どこの馬の骨かわからない”人間が多数いる。そのため、学歴や職歴は採用する企業にとっても重要なリスクヘッジとなっています。

MBA (経営学修士) を取得するために退職して大学院へ戻る、といった話はよく耳にしますが、米国でキャリアアップするためにはどうしても学位が必要となります。我が国では例え三流校の出身であっても就職後、実力を発揮して頂点を極めるといった成功譚も無きにしもあらずですが、米国では学位なしに組織内で出世することはほぼ不可能です。

 

米国の大学は、入学するのは容易だが卒業するのは難しい。こうした物言いは、日本との比較においては事実です。とは云え、Aランクの大学を受験するためには高校時代の成績や大学進学適性試験 (SAT) で高スコアを収めなければならず、最高学府であるアイビー・リーグともなれば学費は最低でも年間6万2,250ドル(約963万円) もするため、これを支払えるだけの経済力も求められます。

米国の大学は、あくまでも学問を修める場であり、意欲がなければ周囲の生徒や教員の迷惑になるため、とっととお辞め下さい、といった基本スタンスを貫いています。よって卒業するのが難しいのは当たり前で、一度でも無断欠席すれば自動的に落第。例え正当な理由があろうとも数回欠席を繰り返せば評価は「D」となり、単位取得は危うくなります (但し、専門知識を習得する大学院について云えば、国費留学や社費による企業派遣留学もあるため、日本の大学で優秀な成績を収めていれば授業には辛うじてついては行けます)。

 

私の米大学の卒業証書です。必要とあればいつでもご提示出来ますのでよしなに。

 

その一方で、こうした学歴偏重社会の裏を掻き、学位を金銭で売買する学位商法 (Diploma Mill) が近年蔓延し、社会問題化しています。いわゆる学歴詐称ですが、日本を含む他国の人事担当者はいとも簡単に非認定の学位に騙されてしまいます。それだけにアカデミック・ヒエラルキーを脅かすこうした裏ビジネスに対しては連邦政府も厳しく対処しています。

2019年 (令和元年) 4月に、35歳の若さで米国務省紛争安定化担当副次官補に任命されたミナ・チャンは、ハーバード大学の経営大学院 (HBS) を卒業したと公言していましたが、実際には7週間の短期プログラムを受講しただけで、米陸軍戦略大学卒といった経歴も、4日間のセミナーに参加しただけであったことが暴かれ辞職に追い込まれました。学歴を偽ることは単なる詐欺行為に留まらず、階級社会においては最も卑劣な掟破りと見做され、社会的制裁を受けることとなります。

 

私は、プロフィールには「留学」とは記さず「卒業」と明記しています。というのも「留学」には1ヶ月にも満たない語学留学プログラム (IELP: Intensive English Language Program) からサマー・セッションといった短期留学まで、ありとあらゆるケースが含まれるからに他なりません。

母国語以外で学問を修めることは簡単ではありません。しかしながら、それに見合った応報もあります。他国の文化を知識ではなく自ら”体験”することで複眼的な視野を獲得し、俯瞰で物事を捉えることが出来るようになる。私にとって米大学で過ごした日々は、楽しいことばかりではありませんでしたが、何事にも代えられない極めて大切な「学び」の時間でした。

 

このページのトピック