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今月9日、財務省は国債や借入金、政府短期証券の残高を合算した「国の借金」が、昨年末時点で過去最大の1,286兆4,520億円になったと発表しました。なるほど、負債だけを見れば悲惨極まりない状態です。間が悪いことに、15日には内閣府が昨年度の国内総生産 (GDP) がドル換算で4兆2,106億ドルとなり、ドイツ連邦共和国に抜かれて世界第4位に転落したと発表しました。

 

しかしながらマスメディアは、「国民がしっかり働かないから、国の借金が増えてしまったではないか!」といった印象操作の色合いが濃い「国の借金」といった常套句、特に「国民ひとりあたりの借金は幾ら」といった言い回しは好い加減、止めるべきでしょう。

ここは「日本政府の借金」と云い表すのが正しい。あなたは日本政府からお金を借りていますか? 借りていません (安易には貸してくれません)。ならば「国民ひとりあたり」といった表現には何ら意味がないどころか、国民に愚にも付かない劣等意識を植え付けるだけで百害あって一利なし。「借金」を返済しなければならないのは、日本国民ではなく、国民の血税を預かる日本政府なのです。

 

それでは日本政府はどこから「借金」しているのでしょう? 米国? 中華人民共和国? まさかのロシア連邦? 違います。主に日本銀行からです。日本政府は国内の金融機関から日本円を用立ててもらっているため債務はほぼすべて円建てです。また、日本銀行には上限はあるものの通貨発行権があるため、債務不履行になることはまずあり得ません。「国の借金」が増えているのは、何も日本国民が怠惰だからではなく、政府のマネージメント能力が低いからに他なりません。

 

 

一方で、「借金」だけを取り上げたところで経済の実態は見えて来ません。企業経営をされている方にとってはイロハのイですが、バランスシート (貸借対照表) には「負債の部」と「資産の部」があります。それでは我が国の公的資産はどれほどあるのでしょうか? 

財務省が公表しているだけでも普通財産と行政財産を合わせた国有財産は131.8兆円にも上っています(令和4年度末現在)。しかしながらこれには港や発電所、都市公園、学校社会教育施設、下水道・廃棄物処理、全国レベルの公共交通システムなどは含まれていません。これら様々な社会資本ストックを含めると、我が国の公的資産はGDPの2倍以上になるとの試算もあります。これら非金融資産の価値が正確に評価、公表されておらず、何よりも有効活用されていない点に問題があります。

 

また、日本銀行が発表した資金循環統計によれば、2023年末時点で日本国民のいわゆるタンス預金は106兆8,530億円もあると云います。昨今の記録的な株高で、株式投資を始められた方も少なくないでしょうが、それもごく一部に過ぎません。預金金利が低ければ、銀行に預けなければいい。歴史的に「お上」を信用しない大半の日本人は、こっそりお金を貯め込み、なかなか吐き出そうとはしません。

国民は「金銭」については殊の外敏感です。そもそもは花柳の巷から出たと謂われる「金の切れ目が縁の切れ目」といった言い回しですが、そろそろ「国の借金」などと誤魔化さず、国民と真正面から向き合わなければ、日本政府そのものが見捨てられることにも成り兼ねません。

いみじくも文豪 森鴎外が小説『最後の一句』の中で、16歳の主人公いちに「お上の事には間違いはございますまいから」と、皮肉たっぷりに云わせたように、財務省のお役人さんも同じく、「お主も悪よのぅ」と云われているうちが華。直ちにけじめをつけなければ来月の今頃には、国民から「サクラチル」の通告を突きつけられても文句は云えません。