20200524.png 

 おやおや。IR(統合型リゾート)の米大手ラスベガス・サンズが日本市場への参入を断念したことで、外資には精通しているはずの某港町の市長さんは青ざめているようですが、多少なりとも世界のカジノ事情を囓っていれば、同社の撤退は容易に予想出来たこと。さもありなん。まったく驚きはありません。撤退の理由は当然、新型コロナウイルスの影響もあるでしょうが、それ以前に「日本におけるIR開発の枠組みでは目標達成は困難」との弁。要は、日本市場では利益が見込めないというシンプルかつ理に叶った経営判断です。

 

 同社はラスベガスでは「ザ・ベネチアン」と「ザ・パラッツォ」の2施設、マカオでは「ザ・パリジャン・マカオ」、シンガポールでは「マリーナベイ・サンズ」を運営しています。ラスベガスの売上高は1,855億円、シンガポールは3,396億円(2016)。マカオのカジノホテルに至っては2017年上半期だけでも4,040億円もの売上を記録しています。

 

 あまり知られていないことですが、大手カジノは一般庶民などまったく相手にはしていません。バランスシートから云えば、世界でも200名足らずのメガ・ウェール”(巨鯨という意味)と呼ばれる億万長者を呼び込めるかどうかが成否の分かれ目となります。いわゆるバンクロール(カジノ資金)が最低10億円、一回のベット(賭け金)1千万円にも上る上客中の上客”です。

 

 まずもって射幸心を煽るといった理由からマキシマム・ベット(最高賭け金)を規制するカジノになんぞこうした顧客はやって来ません。また、これらメガ・ウェールの過半数以上が今や中国人富裕層を始めとするアジア人と云われていますが、すでに彼らはマカオやシンガポールで十二分に満足している。好き好んで「儲からない」日本のカジノくんだりにまでやっては来ません(ちなみにマカオの総売上は、今やラスベガスの約3倍にも上り世界一。ラスベガスはエンタテインメントやMICE〈国際会議や見本市等〉需要を喚起することで第2位のポジションを何とか保っています)

 

 大阪のどう見たところで外資には精通していない市長さんも戦々恐々でしょうが、こちらの話も遅かれ早かれ「なかったこと」となるでしょう。IRを巡る顛末は、ガラパゴス日本特有の参入障壁が、たまには公序良俗に益するといった好例です。内閣府の皆さん、お疲れ様でした。もう少しお勉強しましょうね。