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 組織に属さない一匹狼のジャーナリストとしては、膨大な時間と労力、そして資金を要する書籍ベースの調査報道に踏み切る際には、相当な覚悟を要します。

 

 私自身、取材に着手するにあたり、様々な判断基準を設けています。まず第一に、勝算があるかどうか。これは作品が売れるかどうか、といった意味では必ずしもありません。もちろん一般書籍である以上、売れることが第一義です。しかしながら、そもそも予め算盤を弾いているようではモチベーションもその程度、ということでしょう。人並み外れた熱意なくして、大手出版社は到底説得出来ません。特にノンフィクションはゆるくない。逆に云えば刊行後、不幸にしてさして売り上げが立たなくとも、決してマスターベーションといった次元には留まらない充実感が得られるかどうか、が判断の分かれ目ともなります。

 

 次に、より現実的な判断材料として、状況から推し量って、まずもって取材を完遂出来るかどうか(これまで幾度となく苦汁を舐めて来ましたが、この”読み”を誤ると取材半ばで頓挫することとなります)。また、類書がないかどうか(私自身、他の作家さんでも書けるようなテーマにはまったく興味が湧きません)。そして、最も大切なことは、少々口幅ったい言い方にはなりますが、その作品が、世のため人のためになるかどうか。

 

 当初は今春にも着手したいと暖めていた新たな企画ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で未だ手が付けられずにいます。幸いにも外出自粛中は、新作の執筆にかかりっ切りとなっていますが、出来るだけ早く取材に取りかかりたいとも思っています(通常、書籍を執筆する場合には、企画が決裁されてから着手しますが、調査報道に値する重厚な主題ともなると私自身、どれだけ取材が出来るかスタート時点では見えない部分も多いため、企画が通る前に動き出します)。

 それまでは資料収集と読み込みに時間を費やすこととなりますが、身体を動かす前にどれだけ情報を集められるか。その深度、精度によって、取材のクオリティが変わることは身に染みて知っているため、粛々と準備は進めて行きたいと考えています。書を捨て、町に出られるまでは。