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広島市は、市立中央図書館をJR広島駅前の商業施設エールエールA館の8〜10階へ移転する方針を決定。明後日に開催される市議会総務委員会で説明を行い、市は今年度内には設計事務に着手し、2026年度の開館を目指すと報じられています。

市民に対する十分な説明責任を果たすことなく、一昨年11月に突然降って湧いたような移転案に安易に”便乗”する市の姿勢には疑問を呈さざるを得ません。今後、市民の”知の拠点”である公立図書館を中古の商業ビルへ”押し込める”ことにでもなれば愈々、同市のスローガンである「国際平和文化都市」から「文化」の二文字は潔く返上、削除して頂かなければなりません。そもそも歴史的に見ても「文化」の乏しい広島の地に戦後、「文化」の種を蒔き、華咲かせようと必死の努力を重ねた先人たちも、草葉の陰で泣いておられることでしょう。

 

一方で、移転に反対する市民の側にも初動ミス、戦略の甘さがあったことは否めません。短期間であったとは云えこの1年余りの間に、文化・社会的意義、合理性、採算性を考慮した上で、移転案を遙かに凌ぎ、広く市民の関心を喚起し賛同が得られるようなグラウンドプランは唯のひとつも提起されませんでした。このブログでも1年前から繰り返し”警告”を発して来たように、これでは到底、建設的アプローチとは云えない。民間プロジェクトであれば、「本気度が低い」と受け取られても致し方ありません (被服支廠倉庫の保全問題然り、広島市民には屡々こういった批判はすれども、何ら自らは”創造”しない、しようとしない、といった悪しき傾向が見受けられます)。

 

すでに松井一実市長が今月12日の記者会見で「関係者に丁寧に説明し、理解してもらう対応ができた」と公言していることから、こうした”既定路線”を白紙化することは最早、極めて困難な状況であると云わざるを得ません。ならば、もう打つ手は残されていないのか? と問われれば、まったくないとも云い切れません。例えば、

 

1)  市民が無料で教養を自由に修得出来る公立図書館の存在価値を地方公共団体が軽んじることは、私を含む文筆業者にとっても由々しき問題です。そこで、一般社団法人 日本ペンクラブや日本漫画家協会といった全国組織に現況をつぶさに説明し、「書籍・雑誌を通じた文化保護・育成」の観点から、広島市中央図書館問題の処遇に対する異義を公式声明としてアピールして頂く。または、

2) 広島市のみならず全国の数多くの公立図書館も、老朽化に伴い (旧・耐震基準の建造物ということもあり) 改築・改修・建て替え、または廃止の危機に直面しています。また緊縮財政の折、真っ先に経費削減の対象となるのが図書館や美術館、青少年センターといった文化施設であることも共通しています。よって、こうした採算性を最優先する文化行政に「NO」を突きつけている各地の市民運動と連帯し、全国組織として共同声明を発表する。

 

こうすることで、現時点においてはローカル・マターに過ぎない広島市中央図書館問題は一般性を帯び、全国紙や週刊誌に取り上げられる可能性が高まります。全国ニュースともなれば、広島市としても無視するわけには行かなくなるでしょう。これまで黙して語らなかった大多数の市民がざわつき始める、または”不適切な事実”が明らかにでもなれば、特に4月に予定されている市長選挙への悪影響を避けるため一旦、移転計画を棚上げにせざるを得なくなります。

 

また、同業者の立場から云わせて頂ければ、こうした文化行政の暴走を、なぜ故に地元メディアは報じないのか。彼らが”沈黙”し続ける理由がわかりません。可否はともかくとして、中央図書館の移転・再建を巡る問題が顕在化していることを広く読者に伝える義務はあるはずです。

こうした地元メディアの対応は、被服支廠倉庫の保全問題においても見受けられ、『旧・広島陸軍被服支廠倉庫の再生問題をつらつら考えるの巻㉕』(2020825日付https://japanews.co.jp/concrete5/index.php/Masazumi-Yugari-Official-Blog/2020-8/-広島陸軍被服支廠倉庫の再生問題をつらつら考えるの巻でも指摘したように、「広島ならではの文化」を率先して築き、読者 (市民と共に育てるといった意識は、どうやら殆ど持ち合わせていらっしゃらないようです。

市民の基本的な文化生活に関わるこの問題は、地元紙がタスクフォースを組み、キャンペーンを張って徹底的に真相究明すべき事案でしょう。参考までに、調査報道の基本は、「金の流れを追え」ですよ、「国際平和文化都市」を拠点とされているジャーナリストの皆さん。

 

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