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マルチメディア・アーティストDan Tagueさんの作品『Freedom Land』。折られた米ドル紙幣を組み合わせ、”Freedom Land”(自由の地)の文字を浮き上がらせています。

 

  生まれながらの旅人だからでしょうか。幼い頃から、ロードムービーに惹かれていました。街から街へ。港から港へ。疾走したかと思えば暫し逗留し、やおら荷をまとめたかと思うと次なる街へ。決してコントロールなど出来やしない時間と空間を、手中に収めることが出来るかも知れない。そんな淡い幻想に酔い痴れる The Road to the Heaven on Earth.

  拙著『アメリカの世紀〜繁栄と衰退の震源地をゆく』の基本コンセプトも、こうした憧憬から生まれました。全米36ヶ所の”聖地”を巡る旅。本来であれば、継ぎ目なく「点」と「線」が繋がる旅に出たかったところですが、無謀な夢はついぞ叶わず、数10年かけて巡った”約束の地”を織り上げた一冊の書物、「面」となってここに結実しました。

 

  30代半ば、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための”聖地”巡礼を思いついたきっかけは、2冊の書物にありました。ひとつは、以前にもフェイスブックでご紹介した米文学における Lost Generation、いわゆる失われた世代を代表する作家ジョン・ドス・パソス (John Roderigo Dos Passos) の『The 42nd Parallel』です(邦題『北緯四十二度線』。1930年に刊行された三部作『The U.S.A.』の第1)。難解かつ実験的な文体であることから翻訳が極めて難しく、我が国では殆ど知られていない作家ですが、米国では Stream of Consciousness (意識の流れ)を文学的手法として用いた第一人者としてアーネスト・ヘミングウェイやF・スコット・フィッツジェラルドと並び称される存在です。

 

 

  もう一作は、モダニズム建築を”Less is bore”(削ぎ落とされたものほど 退屈なものはない)と批判して見せた米建築家ロバート・ヴェンチューリーその他の共著による『LEARNING FROM LAS VEGAS(1972年初版 邦題『ラスベガス』)。欲望の街ラスベガスの歴史的変遷を、建築学的見地から分析した名著です(この作品は、米大留学中に受講した米建築史の授業で用いられたテキストでした)

 

 

  この2作が拙著『アメリカの世紀〜繁栄と衰退の震源地をゆく』の、小難しく云えば哲学的バックボーンともなっています。ひとつには、時間と空間をいかに超越するか。今ひとつは、ジャーナリズムの根幹を成す定点観測の手法です。私にとって本作は、この二大コンセプトを融合させた文学的方法論の序章といった位置づけとなります。現在構想中の、調査報道を駆使したノンフィクション作品において活用することは出来ないか。模索そして挑戦は続きます。

  新型コロナウイルスが終息の兆しを見せ始めた今、私のロードムービーは再び、廻り始めました。どの「点」と「点」を結び「線」とし、「線」を交錯させて「面」と成すか。まずは、ちょいと近場の角打ちから。