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「平和」を軸に据えた実りある観光行政を押し進めるためには何よりも、まずは広島市長直轄のタスクフォースを設営すべきでしょう。独立性が担保された「対外マーケティング・プロモーション事業本部」といった位置づけです。スタッフ(期間業務職員待遇)は、英語を始めとする外国語が堪能であることは必要最低条件。外国企業や投資家、官庁、マスメディアと対等に渡り合えるだけのコミュニケーション能力を有したタフネゴシエーターを広く官民から募り、精鋭部隊を組織します(形だけのタスクフォースでは、単なる人件費の無駄遣いになります)

 

続いて、各国の優れたビジネスパーソンやマスメディアとダイレクトに繋がり(平和運動家やNGOではなく、あくまでも実業に携わっているカウンターパートでなければパフォーマンスの幅は広がりません)、広島市が発信する「平和」というキーワードに基づいた各国それぞれのマーケティング戦略を客観的に分析・提案して頂く(言う間でもなくアメリカ合衆国、ドイツ連邦共和国、スウェーデン王国等々、各国で思想、文化は様々であり、観光客の嗜好性も異なります)PRに要する費用は、基本的に成功報酬方式を適用し、その対価として一国一社の独占契約としても良いでしょう。

 

市が国内で擁するリサーチャー(こちらも期間業務職員待遇)は、これらレポートを参考に、都市景観・サービスにおいて欧米人が過ごしやすい、馴染みやすいといった「守り」の姿勢ではなく、彼らが憧れる、是非来てみたいと考えるような「攻め」のコンテンツを徹底的に調べ上げ、絞り込んだ上で担当責任者が現地へ視察に赴き、実際に見聞し、関係者の話を聞き取り、ノウハウを吸収する。この「絞り込み」、結果的に「平和」に関するコンテンツに収斂することは明らかです。くどいようですが、広島市にやって来る外国人観光客で「平和」、「原爆」以外の興味を持っている方々は、現時点においては皆無です。

 

こうして練り上げられた原案を、広島市議会は「国際平和文化都市」としての理念、そして前稿で示した広島スタンダードと照らし合わせ、実現性・採算性を加味し精査した上で1(短期)5(中期)10(長期)で達成すべきプロジェクトに仕分けし採択。予算編成に取りかかります。

1年で実現出来る施策は、すでに現存するサービスや施設を新たな視点から手直しするだけで活性化される事業に限られるでしょう。5年となれば新たなサービスや施設の起ち上げ、国際大会の誘致などが求められます。また、10年計画ともなれば国連関連施設の誘致や大規模施設の建設、都市再開発計画などといった半永久的プロジェクトを念頭に置く必要があるでしょう。云うまでもなく、それぞれの事業が単発で終わることなく50年後、100年後に広島市の新たなアイデンティティとなるべく、相互が密接に連携し合うことで相乗効果を生み出すことに力点を置かなければ意味がありません。接点となる座標軸は時間であったり、空間であったり、テーマであったり、様々なアプローチが考えられます。

 

広島市には、これまで先人が膨大な時間とエネルギーを費やして築いて来たにも関わらず「寝ている」コンテンツが多々あります。そのひとつが平和首長会議でしょう。

ご周知の通り、荒木武市長が1982624日に、ニューヨークの国連本部で開催された第2回 国連軍縮特別総会で呼びかけた国境を越えた世界の都市の連携「世界平和連帯都市市長会議」がその原型となっています。加盟都市数は今年101日現在で164ヶ国、7,961都市にも上っています。

 

ではこの平和首長会議、どのように機能しているのでしょうか。核兵器禁止条約の早期締結を求める署名活動や青少年の「平和と交流」事業の支援など幾つか意義ある活動は見受けられます。しかしながら、この極めて貴重な国際的ネットワークをフルに活用しているとは、とてもではありませんが思えません。単に加盟都市数を増やすことだけに執着していませんか?

起ち上げから40年足らずが経過した今、このネットワークを「数」よりも「質」に転換されてはいかがでしょうか。あくまでも「平和」を主題に据えるとなれば、こうした海外ネットワークを観光事業と連動させることに対して異議が唱えられることはないでしょう。こうした繋がりを通して広く世界に広島スタンダードを浸透させ、「広島体験」を誘致すべきです。

 

被爆者の方々の高齢化が進み、被爆体験の風化が叫ばれて久しいわけですが、このように敢えて「平和」を観光客誘致の軸に据えることで、これまでにはなかった新たな発想、対策が見出せるはずです。被爆遺構の保全も問題となっています。これも「平和」の在処を求めて世界中から多くの方々が広島市を訪れるとなれば、自ずと市民のみならず地元財界の向き合い方も変わって来るでしょう。

 

私が敬愛する米国の思想家バックミンスター・フラーもしくは米細菌学者のルネ・デュボスが提唱したとされる”Think Globally, Act Locally”(地球規模で考え、足元から行動を起こす)の実践が、今の広島市には切に求められています。もちろん容易ではありません。しかしながら広島市は、他の都市にはないグローバル・コンテンツを有していることを、まずは広島市民が自覚すること。そのための啓蒙活動を一刻も早く開始すべきです。手遅れとなる前に。