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米大統領選挙ともなると仕事柄、どうしてもマスメディアの動向に目が向いてしまいます。日本のマスメディアはまったくと云って良いほど取り上げませんが今回、選挙戦で顕在化した極めて深刻な問題のひとつがマスメディアの「分断」です。大人げない泥仕合は両候補だけではなく、マスメディアの間でも恥ずかしげもなく繰り広げられています。云うまでもなくその背景には、生き残りを賭けた熾烈な視聴率競争があります。

 

保守系のケーブルテレビ局フォックス・ニュース・チャンネル(FNC)の平均視聴者数は、何と前年度比48.1%増となり、トランプ人気に後押しされ6年以上にもわたり首位を独走しています。一方、リベラル系もMSNBCが30.1%増 (第2位)、続いてCNNが前年度比12.0%増で急迫しています。皮肉なことにも”トランプ・バブル”によって各局揃って過去最高益を記録する勢いとなっています(もちろん新型コロナウイルスの観戦拡大によって在宅率が高まったことも影響しています)。

コア視聴者数(25〜54歳)ではCNNが第2位でFNCに肉薄しているため(前年度比150.0%!)、FNCとCNNのニュース番組(情報番組ではありません)を見比べると、同じニュースであっても扱い方が真逆であることに驚かされます。これでは視聴者が、他局の報道を”フェイク・ニュース”と捉えても何ら不思議ではありません。

 

選挙戦が進みトランプ人気が衰えない、と云うよりもバイデン候補の支持層が思うように広がらないことから、特にリベラル系の焦燥感には想像以上のものがあり、高級紙として知られる『ニューヨーク・タイムズ』紙までもが、アフリカ系米国人の差別問題を歴史的に考察した「1619プロジェクト」(The 1619 Project)と名打たれた大型企画で、あり得ない事実誤認を連発し、進歩派からもバッシングを受ける始末。トランプ大統領攻撃のつもりが、相手に塩を送る結果となっています。こうしたマスメディアの「分断」は、遅かれ早かれ日本にも、情報に付加価値をつける、といった”経済的理由”から波及することとなるでしょう。

 

米国事情に詳しいとのたまう学者の先生方や英語が不自由なワシントン特派員の方々がまったく報じないので、敢えてここで取り上げますが、米政府 vs. マスメディアの熾烈を極める攻防戦の様子は、ホワイトハウスの記者会見の場でも間近に”観戦”することが出来ます。日本のマスメディアは未だに記者クラブ云々といった前近代的システムの善し悪しについてあれこれ議論しているレベルですが、特にトランプ政権以降、米国では記者会見場がまさにジャーナリストと報道官の”戦場”と化しています。

 

この最前線に、彗星の如く現れたのがケイリー・マケナニー報道官。史上最年少の32歳で今年4月に同職に就いた彼女はまさに才色兼備。並み居るエリート・ジャーナリストを相手に一歩も引かないどころか、逆にやり込めてしまう戦闘的な姿勢が話題を呼んでいます。

フロリダ州タンパ出身のマケナニー報道官は名門ジョージタウン大学を卒業し、FNCで番組プロデューサーを務めた後、ハーバード大学のロースクールへと進みます。その後、トランプ大統領の選挙キャンペーンに加わり今回、異例の大抜擢となりました。

 

ホワイトハウスの記者会見は、ジャーナリストの質問に報道官が答えるといったスタイルが一般的でしたが、彼女の場合は”親分”と同じく型破り。開口一番、まずは民主党議員の不適切な言動を非難することから始まります。パンパカパ〜ン、今週のハイライト♪といった案配です。また、記者への回答の端々にも民主党批判をしっかり散りばめて来る。大統領の失言を責められれば、記者の所属しているメディアの誤報をすぐさま指摘し、「これはどうなっているの? 次回の会見までに回答して下さい」と、まったく怯む様子さえ見せない。言葉は良くありませんが、全く以て、いけ好かない。とは云え、才気溢れる立ち居振る舞いは保守派には大人気で、中には「トランプの次はマケナニーを大統領に!」といった声も挙がっているほどです。

 

 

添付した動画は、保守派によって編集されたマケナニー報道官のハイライトシーン「トップ10」ですが(よって偏ったセレクションにはなっています)、特に第6位以降は圧巻です(3:10〜)。どこぞの国の政治家とは異なり、台本なしで間髪を入れずに畳みかける。マスメディアの手の内を知り尽くしているだけに厄介極まりない存在です(英語がわからない方も、彼女のマシンガントークを堪能出来ます)。

翻って我が国のマスメディアの皆さん。とっちゃん坊やのような官房長官ではなく、彼女のような切れ者がマスコミ対応を仕切ったとしたら、果たしてあなたは太刀打ち出来ますか? 明日は我が身。記者クラブ云々といったぬるま湯にのんびり浸かっている場合ではないのでは?