石坂まさを先生と藤圭子さん(1971年頃)
とにもかくにも音楽が好きで、これまで様々な音楽を聴いて来ました。好奇心旺盛な性格が邪魔をして、このジャンル以外は認めない、といった偏狭さがないのが玉に瑕。お好みはクラシックからラテン音楽、歌謡曲にサザン・ソウル。東南アジアのポップスからハード・ロックに至るまで多岐にわたる、というか、何ともまぁ取り留めがない。
そんなこんなで、演歌です。20代までは、音楽と云えばメロディやリズムにばかりハマっていました。それが三十路を迎えた頃でしょうか。ちょいとばかし人生とやらを囓ったタイミングで、やおら歌詞に目覚めました。物書きとして本腰を入れ始めたこととも、関係があったのかも知れません。
そこでガツンッとやられたのが、作詞・作曲家 石坂まさを先生の作品群です。良く知られているのは藤圭子さんの一連の作品(『新宿の女』や『圭子の夢は夜ひらく』、『女のブルース』、『命預けます』等々)。その他にも小林旭さんの『ギター抱えたひとり旅』や内山田洋とクール・ファイブの『雨のしのび逢い』、西城秀樹さんの『漂流者たち』といったヒット曲をお持ちです。
石坂先生の真骨頂は、何と云ってもその研ぎ澄まされた言葉の切れ味。中でも凄まじいのが藤圭子さんが歌った『東京流れもの』です(1970年)。実はこの曲、作曲者は不詳で、歌詞は川内和子こと川内康範さんバージョン(歌唱 渡哲也さん)、高月ことばさん(歌うは同じく渡哲也さん)、永井ひろしさん(歌唱 竹越ひろ子さん)が手掛けたバージョンがありますが(川内さんの歌詞だけ表記が「者」となっています)、私の中では石坂先生の作品がピカイチです♪
〽 ここは東京 ネオン町
ここは東京 なみだ町
ここは東京 なにもかも
ここは東京 嘘の町
(『女のブルース』第3節より抜粋)
どうです、この言葉に対する感受性の高さと言葉選びの妙っ! シビれますね〜♪ でもって、極めつけは名曲『圭子の夢は夜ひらく』のこのフレーズ(第5節より抜粋)。
〽 前を見るよな 柄じゃない
うしろ向くよな 柄じゃない
よそ見してたら 泣きをみた
夢は夜ひらく
何でしょう。石坂先生が紡ぐ言葉には体温があり、匂いがあります。東京・新宿 歌舞伎町。裏通りに漂う饐えた残飯の臭い、スナックから零れ落ちた下卑た嬌声、そして涙で化粧が剥げ落ちたホステスさんの歪んだ笑顔。石坂先生の言葉には、馬鹿で馬鹿でどうしようもない、不細工で不器用な生き様しか出来ないはみ出し者の男と女を、愛おしく、暖かく包み込む深い愛情が満ち溢れています。こんな詞がひとつでも書けたなら、物書きとしては本望です。あぁ、東京流れもの。