1973年 (昭和48年)、荒井由実名義のファーストアルバム『ひこうき雲』を購入。当時はキャラメル・ママ (細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆) やシュガー・ベイブ (山下達郎、大貫妙子、松村邦男、鰐川己久男、野口明彦) といったマニアックなインディーズ系和製ポップスを好んで聴いていたため、その流れでこの作品にも出会った記憶があります。
その後は、若くしてサザン・ソウルやミシシッピー・ブルース、遂にはラテン・ミュージックといった殊の外汗臭い音楽ジャンルへと興味が移ってしまったため、耳当たりの良い”ニューミュージック”とは無縁の生活を送ることとなります。ユーミンこと松任谷由実さんの楽曲も、街に流れるヒット曲は皆さんと同じように聴いてはいましたが、特にハマることはありませんでした。
そんな”ユーミン世代”でありながらも、恥ずかしながら”ユーミン音痴”であった私が先週15日(水)、代々木第一体育館で開催された 『50th Anniversary 松任谷由実コンサート』 (東京・渋谷) を初めて鑑賞して来ました。デビュー50周年を記念して全54公演、57万人を動員するという大規模な全国アリーナツアー。その名も「THE JOURNEY」、ユーミン船長率いる1万3,000人の信者たち、いやファンの皆さんと共に大海へと漕ぎ出しました♪
まずもって驚かされたのがその舞台装置のスケールです。噂には聞いていたもののステージは巨大な海賊船。炎を吐く全長10メートル、重量約2.5トンのメカニック・ドラゴンもコンサート半ばにユーミンを乗せて登場しました (このステージのバラシ作業は、今年8月2日放送されたNHK『解体キングダム』でも取り上げられていました)。ステージ衣装は、世界的デザイナー アナ スイ (ANNA SUI) の手によるもので、「海」をテーマにブルーを基調とした華やかなファッションが異次元へと誘います。
計算され尽くしたライティングもまた、特筆すべきクオリティーでした。LEDライトやムーンフラワー、レーザーといった最新の照明エフェクトを駆使し、ファンタジー溢れる世界観を創出。まさに、ディズニー・ワールドを彷彿とさせるユーミンのエンターテイメント魂に心奪われました♪
『心のまま』に始まりアンコール3曲、そしてダブルアンコールに至る約2時間 (全23曲)。何ともかわいらしいMCを挟みながらも、ほぼノンストップで走り抜けた御年69歳のユーミンのパワーには圧倒される他ありませんでした。また、『真夏の夜の夢』や『守ってあげたい』といった大ヒット曲を聴きながら、今更ながら気づいたことがあります。
「ユーミンが紡ぐ音楽は、彼女にしか作れない」。至極当たり前のように聞こえますが、日本のロックやポップ・ミュージシャンの作品には、ほぼ例外なく影響を受けた海外アーティストの”影”が見え隠れするものです。ところが、いくら頭を捻ってみたところでユーミンの場合には、見事なまでに”影”が見えない。ほんの少しだけ1960年代後半に流行したフランシス・レイやフランソワーズ・アルディ、ミッシェル・ポルナレフといったフレンチ・ポップスのエッセンスを感じることは出来ますが、ユーミンはどこを切ってもユーミン。これほどまでにオリジナリティ豊かなシンガーソングライターは、日本広しと謂えども彼女しかいないでしょう。まさに目から鱗。皆が口を揃えて「天才」と評する理由が、半世紀を経て漸くわかりました。
いかなるアーティストであれ、”時代と並走する者”は一種独特のオーラを纏っています。それは、本人が生まれながらにして持ち合わせている”磁力”だけではなく、多くのファンの想いによって磨かれ、育てられた”魔力”によって醸し出されます。ユーミンのステージには間違いなく、そうした”霊力”が宿っていました。
小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持ちで目覚めた朝は
おとなになっても 奇蹟はおこるよ
(『やさしさに包まれたなら』より抜粋)