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 そもそも自由民主党は、何故に結党以来、憲法改正を党是に掲げているのでしょうかなぜ自衛隊を自衛軍に変えたがっているのでしょうか「緊迫化する日本周辺の安全保障環境」に鑑みてですかそのような表層的な情報を真に受けていては、憲法改正をまともに論じることなど出来ません。賛成派も反対派も(与野党議員さんも)まずは歴史を知り、国際的視野からこの国の立ち位置を捉える必要があります。

 

自民党政権が2015年に、『平和安全法制整備法』と『国際平和支援法』の法制化を、”戦争法案”と揶揄されようが強引なまでに押し進め、戦後一貫して憲法改正を目指して来た理由は、戦後世界体制の清算、再構築であることは明らかです。

第二次世界大戦の戦勝国によって1944年に、米ワシントンD.C.郊外のダンバートン・オークスにおいて作成された新たな国際機構案が現在の国際連合の雛形となり、ここで議論された『一般的国際組織の樹立に関する提案(Proposals for the Establishment of a General International Organization)』がヤルタ会談を経て45年6月26日に、加盟50ヶ国により『国際連合憲章(The Charter of the United Nations)』として採択されました。しかしながら現在も遵守され、国際社会の規範ともなっている同・憲章には、いわゆる”旧敵国条項”が未だに明記されています。

 

旧敵国条項”とは、具体的には第53条の1にある「〜もっとも、本条に定める敵国のいずれかに対する処置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする」であり、”敵国”とは(2)、

「本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される」とされています。

つまり、第二次世界大戦中に、連合国に対して銃口を向けた枢軸国の我が国とドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドが、ここでいうところの”敵国”に該当するわけです。但し、日独伊以外の国々は大戦中に枢軸国から離脱し、独伊は戦後”国体”を改めたため、対象国は日本のみとなります。

 

要は、日本が万が一にもこれら署名国(中華人民共和国をも含む)に対して武力行使を行った場合には”機構”、北大西洋条約機構(NATO)のような軍事同盟が国連軍に先んじて反撃しても構わない、とされています。つまり”旧敵国条項”がある限り理論上は、いかに”積極的平和主義”を掲げようが、自衛隊が国際連合平和維持軍(PKF)に参画したところで、派遣国が国連加盟国であれば、いかなる武力行使も国連憲章に反する行為となり得る。さらに107条では、

「この憲章のいかなる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない」と釘が刺されており、戦争終結の際に定められた取り決め(例えば東京裁判)は同・憲章に優先するとも定められています。

 

 これら条項は、どう考えたところで時代錯誤であり、すでに死文化しているということから95年12月11日の国連総会において、その削除が賛成155ヶ国、棄権3ヶ国(北朝鮮、キューバ、リビア)といった圧倒的多数により採択されました。しかしながら国連憲章の改正には、国連安全保障理事会の常任理事国を含む国連加盟国全体の3分の2の批准が求められます。そのため128ヶ国以上の国々が、それぞれの国会あるいは議会の承認を得るなど、所定の国内手続きを終える必要があるため90年代以降、議論が繰り返されて来た国連安保理事会改革と併せて、現実問題としてはほぼ改正は不可能。矛盾は解消されていません。同・憲章の改正には、憲法改正と同じく極めて高いハードルが設けられているというわけです。

 

 こうした事情を踏まえれば、我が国にしてみれば、影響力をフルに発揮出来る国連常任理事国入りが唯一の突破口であり、国際社会といった観点に立てば、国連憲章から”旧敵国条項”を速やかに削除し、常任理事国の一員となることで、初めて日本は”一等国”の称号を得ることが出来、我が国にとっての戦後がようやく終結することとなります。

 

 しかしながら、常任理事国が軍事力を有していなければならないといった規定はないものの、国連が戦闘地域にPKFを絶え間なく派兵せざるを得ない現状から云えば、リーダー格の常任理事国が兵隊を出さない、というわけにはいかないと考えるのがごく普通の発想です (ちなみに帝国陸海軍が戦った連合国軍は、今で言えば国連平和維持軍にあたることを想起すればわかりやすい)。

そのため、自衛隊の派兵を可能にするためには国内法の整備、憲法改正がどうしても必要不可欠となって来る。54年の発足以来、憲法第九条第二項に明記された「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」との整合性を図るべく専守防衛を本懐として来た自衛隊と、国民ではなく公権力の暴走に歯止めをかけるための平和憲法とをいかに共存させるか、に自民党はこれまで苦悩し続けて来たわけです。

 

   と、ここまでは歴史的事実を綴って来ました。では、”旧敵国条項”を国連憲章から削除するためには、”自衛軍”を創設した上で、常任理事国入りしなければならないのでしょうか? そう考えたのは、冷戦期の自民党のお歴々です。今や時代は大きく変化しています。結党以来65年もの間、金科玉条の如く黴の生えた看板を掲げていること自体、時代錯誤の謗りは免れません。

   我が国は、75年もの長きにわたり戦争はしていない。他国を侵略していない。この事実こそが、我が国が最早、国際社会にとって”敵対国”ではないことの何よりの証でしょう。日本政府は、こうした歴史的事実を前面に打ち出し、各国に訴えかけて行くべきです。”自衛軍”を手土産に認めてもらおうなどといった姑息な手段は金輪際止めにして頂きたい。平和を愛する日本人の沽券に関わります。

 

確かに旧・大日本帝国は「加害国」であり、周辺国に多大な惨禍をもたらしたことは事実であり、我が国が平和であり続けたからと云って決して許されるものではありません。過去を顧み、深い反省に立った上で未来を築かなければなりません。しかしながら結党大会に馳せ参じた鳩山一郎、緒方竹虎、大野伴睦、三木武吉を始め、衆議院298名、参議院115名の自民党議員の誰が、我が国がこれほど長きにわたり戦争を起こさず、巻き込まることもないと予想したでしょうか。

 

我が国は、日本国憲法を高く掲げ、胸を張って世界に訴えかけなければなりません。「日本、そして日本国憲法こそが、これからの国際社会のモデルになる」と。改憲派、反対派を問わず、型に嵌まった発想しか出来ない旧態依然とした面々は、待ってましたとばかりに「理想論を掲げたところで国際社会では通用しない」と、訳知り顔でのたまうでしょう。しかしながらこれは外交交渉における極めて高度なテクニック、ストラテジーです。日本国憲法が掲げる「平和主義」を真っ向から否定する国はありません。「軍隊」を保持しないことを冷笑する国もない。というのも激動する21世紀において日本国憲法の価値はこれまでになく高まりつつあるからです。

思想、信仰、そして経済的理由により殺戮が繰り返された20世紀を経て世界は今、新たな”規範”を模索しています。今こそ、我々日本人は日本国憲法の前文に宣した「われらは、平和を維持し、専制と隷属、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」を実現する千載一遇のチャンスを迎えつつある。こうした大きな時代の潮を感知し、実行に移すか否か。”選民”たる政治家の、そして我々日本人の知性と倫理観、何よりも品性が、試されています。

 

次回は、何かと云えば錦の御旗の如く持ち出される「緊迫化する日本周辺の安全保障環境」について綴ります。

 

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