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広島が、最も国内外の耳目を集める8月。被服支廠倉庫保全問題について、地元メディアが満を持して広島県の方針を覆すような一大スクープを打つのではないかと密かに期待していましたが、どうやら淡い夢に終わったようです。関連記事・番組は例年よりも多かったようですが、いずれも従来の論旨をなぞったものばかりで、まったく新味がない。僭越ながら同業者の立場から云わせて頂ければ、「守り」の取材に終始し、「攻め」ていない。

 

もちろん記録としての価値は認めます。この問題で積極的に発言されている被爆者の切明千枝子さんには、私も何度もお目にかかり、その慧眼と不屈の精神を心から敬愛しています。しかしながら、こと被服支廠倉庫の保全問題に限って云えば、回顧録といった切り口では到底、280万広島県民の関心を勝ち取り、サポートを得ることは出来ません。

本気で取材に取り組めば、少なくとも100億円は下らないとされる保全費用を捻出する手立てが新たに創出されなければ、全棟保全は不可能であることはすぐにわかります。地元メディアは一様に、解体・撤去は「取り返しのつかない行為」だとして全棟保全を訴えてはいますが、本音では、県の1棟保全2棟解体・撤去を容認しているとしか思えません。なぜならば、過去の歴史を辿るばかりで、何ら具体的な再生案を示していないからです。

 

はっきり云いましょう。残念ながらこれで県保有の被服支廠倉庫3棟保全の可能性は、ほぼなくなりました。湯崎知事は、来年度の当初予算編成に合わせて方針をまとめると明言しています。つまり遅くとも年末までに、昨年末に県が打ち出した原案を凌駕するだけの卓越した代替案が提起されなければ来期、2棟は解体・撤去されるということです。タイムアップは、すでにもう直前に迫っています。

 

広島の地元メディアに、最後の提案です。マスメディアは事実を伝えることが第一義です。しかしながら、地域社会の尊厳と利益を守るため、時には民を啓蒙することも必要でしょう。そこで、独自に『被服支廠倉庫全棟保全試案』を作成し、公表してはいかがでしょうか。元より完璧なプランである必要はありません。あくまでも叩き台として読者や視聴者の注意を喚起し、意見・要望を掬い上げ、共により良い代替案を形作るためのキャンペーンです。

 

その際、膨大な費用をどのように捻出するかを主軸に据えたグランドプランでなければ意味を為しません。保全後、ハコモノ行政の悪しき前例と指弾させないためにも、必要とされる数億円単位の年間管理・運営費用を自立的に生み出す打開策も併せて提案しなければ絵に描いた餅となります。

経済観念に乏しい自民党の議員連盟が(公費での負担を求める事業費30億円以外は)クラウドファンディングによって外部資金を集めるなどと、ねむいことを云っているようですが、これだけ関心度の低い案件についてクラウドファンディングを実施したところで集められる金額は、プロモーションが首尾良く展開出来たとして5,000万円程度。普通に考えれば2,000万円前後が妥当な数字でしょう。意味がないとは云いませんが、焼け石に水の金額です。

そもそも、ただ「残したい」といった感情論に対して、大切なお金を投資する奇特な方が一体どのくらいいらっしゃるというのでしょうか。観光セクターにおいて新たなインバウンドを産み出し、リピート率を高め、地元財界が触手を動かすような魅力的な経済再生計画が根底になければ、机上の空論に終わってしまいます。人間には、忘れやすいという欠点があります。と同時に後ろを振り返るよりは、前を向いて進みたいといった性向を持っています。夢と希望が示されなければ、人間は動きません。

 

昨年末以来、この問題については何度も書き、稚拙ながらも私なりの提案を行って来ました。それもこれも、広島の戦前・戦中・戦後を物語る極めて重要な歴史遺産を、是非とも後世に残してもらいたいとの願いがあったからに他なりません。しかしながら、被服支廠倉庫が纏う歴史的価値を「語る」ひとはいても、体を張ってこれを「守る」、つまりは有効な保全策を打ち出すひとは悲しいかな、広島にはただのひとりもいなかったようです。

 

地元メディアによる再生計画キャンペーン。これが、掛け値なしに被服支廠倉庫全棟を守り、救う最後のチャンスとなるでしょう。残された僅かな時間。皆さんがどのように考え、行動なさるのか。静かに見守って行きたいと思います。