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私は、京都市以外で広島市ほど、欧米からの観光客が目につく地方都市を知りません。東京も、新型コロナウイルス感染拡大以前は海外からの観光客で溢れ返っていましたが、その多くは中華人民共和国を始めとするアジア諸国からのお客様でした。いわゆる「爆買い」が主目的の観光客の皆さんです。

 

もちろん広島市と東京都とでは、人口規模が桁違いであるため実数では比べようもありませんが同市の場合、欧米人比率が格段に高いのは事実です(広島平和記念資料館の2019年度の外国人入館者数は522781人で、総入館者数に占める割合は29.7%にも上っています。内、すべてが欧米人というわけではありませんが、同館のスタッフによれば、殆どがそうであろうと見られています)。こうしたインバウンドは、広島市の努力の賜物か、と云えばまったくそんなことはありません。批判を恐れずに云えば、広島市の発信力は驚くほど低く、外から見ればほとんど何もしていないに等しいレベルです。

 

 海外からの観光客はなぜ広島を訪れるのでしょう答えは簡単です。彼らは平和の在処を探しに来る。原爆の惨禍、きのこ雲の下で何が起こっていたかを知るためにやって来るわけです。にも関わらず、例えば資料館の公式ホームページで視聴出来る被爆体験証言者の英語による講話(Atomic bomb survivor testimony video)は、現時点においては小倉桂子さんのお話のみ、驚くことにたった1話だけです。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ようやくインターネットを通じたビデオ・カンファレンス・サービスは始めたようですが(A-bomb Testimony through the Internet Video Conferencing )、被爆都市・広島のセンター、発信基地であるべき同館でさえ、海外に向けて積極的に”平和都市”をPRしようといった意欲があるとは到底思えません。

何もしなくても来訪者は資料館に来てくれる。原爆ドームを訪れてくれる。それは市が積極的に働きかけた結果では毛頭なく、広島市民の皆さんのご両親や祖父母の世代が、尊い命を犠牲にして残して下さった被爆の実相という遺産があるからです。皆さんは、黙っていても観光客は来るものだと胡座をかいてはいませんか?

 

 僭越ながら私に云わせれば、もしも広島市が戦略的かつ効果的なプロモーションを展開すれば、インバウンドは容易に1.5倍にはなるはずです。繰り返しになりますが、広島市が世界に誇れるコンテンツは「平和」です。極論すればそれ以外にはありません。

牡蠣が美味しい。確かです。ただ牡蠣は三陸にもあります。日本酒が素晴らしい。異論はありません。ただ名産地は新潟を始め全国各地に広がっています。宮島がきれい。もちろんです。でも美しい景観は、言う間でもありません。私は、広島市を名指しで批判しているわけではありません。全国の地方都市も同様の悩みを抱えています。ただ、他都市の多くは激烈なサバイバル競争を勝ち抜くために必要不可欠な世界中の人々が地名を耳にしただけで、すぐにイメージが湧くほど明確なキャラクターを持ち合わせてはいません。広島市にはそれがある。なのになぜ、それを前面に打ち出し、積極的に活用しようとしないのか。私には、どうしても理解が出来ません。

 

 「東京のように今っぽいコンテンツが欲しい」だとか「お洒落な感じがいい」などといった凡庸な議論を交わしている間に、時間はどんどん過ぎ去って行きます。被爆者の方々は天寿を全うされ、被爆遺構も失われて行く。「やっぱり広島市が世界に誇れるコンテンツは平和!」と気づいた頃には、すでに手遅れとなっていることでしょう。現在の受け入れ体制ではリピーターは期待出来ず10年、20年後にはインバウンドが激減して行くことは火を見るよりも明らかです。伝承者ではなく、被爆者の方々から直接体験談を聞けない、被爆の実相を伝える建造物も見当たらない。そんな広島に一体誰が来ると云うのでしょうか。今こそ、早急かつ適切な手を打たなければ未来は危うい。ヴィジョンなくしてプランは築けません。

 

  ではどうすれば良いのか次回は、具体的な戦略について、思いつくまま私論を綴ってみたいと思います。