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広島県議会の2月定例会が、明日15日から開催されます。被服支廠倉庫の保全問題も議題に上っているため、注意深く見守って行きたいところですが、残念ながら県が提案する (県保有の) 「1棟保全2棟解体」といった方針が採択されることは最早、避けられない状態となっています。

 

一昨年末に同・倉庫の保全問題にかかる連載をスタートして以来、稚拙ながらも私なりに様々な利活用法を提案させて頂きました。お陰様で数多くのフィードバックを頂戴しました。あれから早いもので1年以上が経過し、その間、県の対応には幾ばくかの変化が見られたものの(20年度一般会計補正予算案に再調査費3000万円を計上し、れんが塀の強度を調査・保存の工法を検討)、昨年12月4日に投稿した本連載の「その㉖」でも指摘したように、解体・撤去に反対する側にはさしたる進展も見られず、殆ど無為・無策のまま、この日を迎えることとなりました。

最大の問題点は、1年というモラトリアムがあったにも関わらず、過去に固執する余り発想の切り替えを躊躇い、4棟保全を前提とした現実的かつ未来志向の利活用法を提示出来なかった(さらには1棟ではなく、なぜ4棟すべてを残すべきかについて説得力ある理由付けがなされなかった)。広く県民の関心を集め、コンセンサスを得ることが出来なかったことに尽きます。

被爆建物は日本国民、いや世界中の人々にとっても掛け替えのない”遺産”です。しかしながら広島県が所有している建造物である以上、広島県民がその存廃の鍵を握っています。つまり、厳しい云い方にはなりますが、県の判断は広島県民の「決断」ということになります。

 

県の経営企画チームが今月12日に作成した資料「旧広島陸軍被服支廠に係る詳細調査結果等を踏まえた整理について」を一読すれば明らかなように(広島県議会の公式HP内「総務委員会概要(令和2年7月〜)」の「令和3年2月12日開会分」からダウンロード出来ます)、県は「1棟保全 2棟解体・撤去」を前提に、「1棟」をどのような形で利活用するか、について検討を進める、としています(要は、その1棟を外観保存のみとするのか、内部利用可とするか、または内部を全面活用するか、といった”利用形態”の策定です)。

 

ここに来て国が、「具体的な活用方法」が示されれば「費用負担を前提とした協議に参加する」と県に伝えた、との報道がありました。しかしながら、県の再調査に基づく1棟あたりの概算工事費は、最も安価な「耐震改修せず外観のみ保存(内部立入不可)」で3億9000万円、フルスペックの改修となる「耐震改修。1階は博物館、2〜3階は会議室など(内部を全面活用)」ともなれば17億7000万円と見積もられています。4棟保全を想定すれば総額53億1000万円。実際は、見積もりよりも費用は嵩むことから、少なくとも70億円前後は必要となるでしょう。

市・県・国が揃って新型コロナウイル感染対策で補正予算を組む中、こうした”不要不急”の案件に対して、どれだけの予算が振り分けられるでしょうか。おそらくは、県の方針通り1棟のみを「内部を全面活用」といった形で残し、17億7000万円を市・県・国で分担する、といった結論に落ち着くのではないかと思われます。

 

此の期に及んで全棟保全を主張したところで、県の方針を覆すことは至難の業でしょう(そもそも討議すべき代案さえない状態です)。広島県民280万人の半分とは云わないまでも、少なく見積もっても40万人程度(広島市人口の約3分の1)の賛同が得られなければとても”民意”とは云い難い。原爆ドーム保全の際と同じく、「そんな金があれば(コロナ禍によって)生活が困窮している県民に配れ」といった声が議員のみならず県民からも噴出する可能性があります。

万が一にも再び、モラトリアムが得られた場合には、繰り返しになりますが、県経営企画チームによってパブリック・オピニオンを集めて頂く。被服支廠倉庫保全の賛否ではなく、どのように利活用するか、または撤去する場合には跡地をどのように有効活用するか、について具体的なアイデアを広く募る。その上で、地元メディアにはキャンペーンを張って頂きたい。単に解体・撤去に反対するのではなく、積極的に利活用法の叩き台を提案する前向きなコミットメントが求められます。

 

これまでのように座して待っていても、同好の士と車座になって話し合うだけでも、被服支廠倉庫の解体・撤去の方針を変えることは出来ません。私自身も、悔しい想いで一杯ですが、もう残された手は殆どない、と云わざるを得ません。広島は、一体どこへ向かおうとしているのでしょうか。