20210410-1.jpg
ササ医師はチン州の150の村落を組織し、プライマリ・ヘルスケアに従事する医療従事者を育成するサービス・センター「ヘルス・アンド・ホープ・クリスチャン・オーガニゼーション」を設立。英王室のチャールズ皇太子も同施設のパトロンのひとりに名を連ねています。

 

   昨日、東京・千代田区の日本外国特派員協会において、ミャンマー連邦共和国の国民民主連盟(NLD)の議員らが設立したミャンマー連邦議会代表委員会(CRPH)の国連特使であるササ医師(Dr. Sasa)の記者会見が開かれました。国家統治評議会(軍事独裁政権)から国家反逆罪で訴追されている同医師が、潜伏先からリモートで登壇した会見に、私もオンライン参加させて頂きました。

 

   同国北西部チン州の出身でクリスチャンでもある同医師は、昨年11月に実施された総選挙でアウン・サン・スー・チー氏の選挙活動をサポートし、NLDが圧倒的な勝利を収めたことから(全体の83.2%を獲得) 政治活動に加わりました。2月1日未明に起こった軍事クーデターの際には首都ネピドーに滞在していたものの、タクシー運転手に変装し、3日間かけてインドへと脱出しています。少数民族出身のササ医師は、国民的融和を目指すCRPHの象徴とも云える存在です。

同医師は会見で、

「もしも国際社会からの支援が得られなければミャンマーは、さらに深刻な”内戦”に突入することは避けられません。それは、制御不能な凄惨な虐殺を引き起こすことになるでしょう」と、警鐘を鳴らしました。何百万人もの国民が市民的不服従運動(CDM)を実践し、多くの死傷者が出ている現状については、

「もしもCDMではなく、市民が武器を取って治安部隊に立ち向かっていたならば、今の何倍もの人々が殺されていたに違いありません。CDMを押し進めているからこそ国際社会の理解も得られると信じています」と、その意義を語りました(ミャンマー国民によるCDMは、ノルウェー王国オスロ大学の 6名の学者によってノーベル平和賞に現在ノミネートされています)。

 

「国軍は、過去52年間にわたり中華人民共和国やロシア連邦から膨大な武器を購入しています。彼らは現在、それらを何の躊躇いもなく市民に向けて使用している。そのためウラジミール・プーチン大統領もしくは習近平国家主席が国軍に、電話一本かけることでこの残虐な行為を止めさせることが出来ます。中国、ロシアにしても、求めているのはミャンマー情勢の安定のはずです。内戦状態に陥れば経済的利益を得ることも出来ない。米英を含む国際社会には今すぐに、効果的な外交、経済制裁を含むアクションを起こしてもらいたい」と力説し、

「我々は、民主主義の殺人者、正義の敵である国家統治評議会と妥協するつもりはまったくありません。国連には、”保護する責任”(R2P)に則り、国連平和維持活動(PKO)を発動して頂きたい。静観して残虐行為を容認するのか、それともコミットするのか」と、諸外国に決断を迫りました。

R2Pとは、自国民の保護といった国家としての基本的義務を果たす能力がない、または果たす意志のない国家に対して国際社会全体が、当該国家の保護されるべき人々を”保護する責任”を負う、といった概念で、2005年9月の国連首脳会合成果文書において認められました。日本企業に対しては、

「操業停止してもらいたいわけではありません。ただ、国軍への資金提供を速やかに止めてもらいたいのです」と、云います。

 

   さらにササ医師は、新たな民主的連邦国家 (Federal Democratic Unity of Myanmar) の青写真とロードマップを披瀝しつつ、

「国民的融和を図るしか多民族国家である我々が生き延びる道はありません。イスラム系少数民族であるロヒンギャを含む多民族の文化、習俗、思想を尊び、花のように咲き誇る多民族国家、市民の声を最優先する国家を創りたい」と、熱っぽく語りました。

 

   身の安全を図るため、逃亡生活を続けるササ医師の肉声を聞けたのは私にとって貴重な経験でした。しかしながら、メンバー全員が地下に潜伏もしくはアウン・サン・スー・チー氏を始め治安当局によって拘束されている現状では、CRPHが政治母体としてどれだけ体制を整えているのか、新国家の理念・プランについてコンセンサスが得られているのか、については正直なところ不透明といった印象を受けました。

また、コーディネーターのビデオ・ジャーナリスト神保哲生氏がいみじくも質問されたように、CDMを継続しながらも、少数民族の武装組織も加えた”連邦軍”を創設する、といった矛盾はどのように解消するのか、についても明確な回答はありませんでした。CRPHは、2008年に国軍の影響下で制定された憲法を破棄すると宣言していますが、それに代わる憲法草案も未だ明らかとなってはいません。

 

新国家建設の具体的な道筋は未だ構築途上とは云え今後、国家統治評議会に対峙するCRPHが、西側諸国の窓口となることは間違いありません。茨の道であることは容易に想像出来ますが、ミャンマー国民にとって唯一の”希望”である彼らの動向には、引き続き注視して行きたいと考えます。

 

昨日の記者会見の模様はこちらの映像をご覧下さい(全編英語のみ)。

このページのトピック