ミャンマーでは、様々な名称が冠された抵抗運動が行われています。これはペーパーバッグ・ストライキと名打たれた折り紙の篭に抗議メッセージを記したもの。
一昨日からミャンマー連邦共和国は、ビルマ暦の新年にあたる17日を控えて、仏教徒がティンジャン(Thingyan) と呼ぶ身心を清める水かけ祭りと、イスラム教徒の断食月ラマダン(Ramadan)、ヒンズー教徒が9日間にわたり様々な女神に祈りを捧げる春のナブラトリ(Navratri) を、奇しくも同時に迎えています。
しかしながら、民族融和を謳歌すべき祝祭の刻であるにも関わらず国軍は、同国の人権団体 政治犯支援協会(AAPP)の調べによれば、確認されているだけでも過去73日で715名もの幼児を含む罪なき人々を虐殺しています。
同国最大の都市ヤンゴンでは今月に入り、大規模な抗議デモが急速に影を潜めたとも伝えられます。ならば、市民は治安部隊の武力の前に屈したのかと云えば、そうではありません。市民的不服従運動(CDM)を徹底し、ありったけの知恵を絞りながら、沈黙の抵抗を粘り強く続けています。
こうしたやり方を見て、くだらないと思うひともいるでしょう。そんなことをして意味があるのか、と嘲笑うひともいるかも知れません。笑いたい者には、笑わせておけばいい。非暴力を貫くということは、皆さんが思っているほど格好のいいものでも、ヒロイックなものでもありません。私は、名もなきミャンマー市民が日々、これでもか、これでもかと繰り出す手作りの、しかしながら命懸けの抗議行動から、民主主義というものが形作られるプロセスをひしひしと感じ、その凄みに圧倒されています。
誇り高きミャンマー市民の言動は、「民主主義とは何か?」といった根源的な問いかけのみならず、宗教や民族、思想をも超越した新たな世界観を果たして人類は構築し得るのか? といった重い命題を私たちに突きつけています。
同国では現在、CDMの影響により数千人もの公務員が職場を放棄し、銀行窓口も閉鎖。シンガポールを始めとする外国資本も撤退を余儀なくされているため、同国通貨チャットの対米ドル安が急速に進み、世界銀行によれば今年の国内総生産(GDP)は10%を超えるマイナス成長になると予想されています(過去10年間では平均6%余りで成長)。
そのためガソリンを始めとする物価が高騰し、市民生活には大きな支障が出ています。まさにミャンマー市民は骨身を削りながら必死の闘いを続けています。民主主義とは単なるお題目ではなく、このように夥しい血と涙を流しながら獲得して行くものだということを、私たちは心に刻んでおかなければなりません。
スイカ・ストライキでは、名産のスイカを「中華人民共和国が輸入しないのであれば私たちが食べます!」のメッセージが。大都市を中心に反中感情が高まっているようです。
黒服ストライキでは、民主化運動に斃れた勇者たちを悼み、揃って黒い服を着て見せています。生命の危険があるため、正面から撮られた写真をSNSにアップするケースが減っていることがわかります。
例年、水かけ祭りに用いられる赤い壺に抗議のメッセージを添えた赤い壺ストライキ。緑は国軍の色、赤は民主化運動の色とされています(共産主義もしくは親中という意味ではありません)。
グリーンデイ・ストライキでは、様々な葉に怒りの文字が刻まれています。その他にも定刻に懐中電灯を夜空に向かって一斉に点灯させるフラッシュ・ストライキや、メッセージ入りの風船を上げるバルーン・ストライキなど、SNSを介して次から次へと抵抗の意志を表す方法が拡散されています。
エーヤワディ管区のピャポンでは、紙幣に抗議メッセージを書く”抵抗運動”が始まっています。匿名性が高いと同時にスローガンが広範に流通する極めて秀逸なアイデアと云えるでしょう。