彼らの作品は、多くの人々に共有され抗議デモでも使用されています(Artist: YH)。
絵画や音楽、文学に、世界を変える力はありません。しかしながら優れたアートは、私たちに感動を与え、心揺さぶり、疵を癒やし、社会をより良き方向へと導く計り知れない霊力を与えてくれます。
未曾有の事態に直面し、アーティストには何か出来るのか、何を為すべきなのか。ミャンマー連邦共和国の名もなき若者たちは教えてくれます。アートは、”武器”にもなり得ます。殺傷力はありませんが、権力者が最も忌み嫌う「希望」という名の鋭利な刃を纏い、人々の良心を突き動かします。
ミャンマーの若きアーティストたちが絵筆を取っています。悪条件の中、短期間で制作せざるを得ない現状では、決してクオリティの高い作品群とは云えないでしょう。それでも、その筆致からは迸る想いの丈を感じ取ることが出来ます。こちらの『ART IS OUR WEAPON』(私たちの武器はアートだ) をご覧下さい。同国のアーティスト集団YANGON.design (ヤンゴン・デザイン)が、治安部隊の監視の目を掻い潜って描き続けている、今そこにある真のプロテスト・アートです。
プロテスト・アートは、近代に誕生した芸術運動と位置付けて良いでしょう。それ以前にも、16世紀にはローマ・カトリック教会の教えに異議を唱えた清教徒たちが風刺画を描きましたが、体系化されたのは産業革命以降となります。パブロ・ピカソの名作『ゲルニカ』(1937年)を始め、新即物主義(Neue Sachlichkeit)やダダイズム(Dadaïsme)、社会主義リアリズムのように、為政者によるプロパガンダ・アートに対抗して様々なアート・フォームが生まれました。
しかしながら、ミャンマーのアーティストたちが描く作品の数々は、安全な場所に身を置き冷笑して見せる似非インテリ向けのシニシズムではありません。官憲に見咎められても数日間、臭い飯を食えば自由の身になれる”平穏”なモグラ叩きでもありません。掲示しているところを発見されれば、その場ですぐさま射殺される可能性が極めて高いまさに命懸けの創作活動です。刑法505条違反容疑で、すでに多くのアーティストたちが治安当局によって拘束され、音信不通となっています。
平和な治世ではアートは生まれない、といった脳天気な意見を吐くひとがいます。口では平和の大切さを説きながらも、心の片隅で騒乱を心待ちにしているこうした輩には、心底怒りを感じます。
よろしい。そんなあなたは一度でも、命懸けで絵を描いたことがありますか? 自らの分身である作品が金ではなく武器になると一度でも、感じざるを得なかった哀しい記憶はありますか? 生きとし生けるものの宿痾である芸術は、あなたが考えている以上に残酷であり、頑強なものです。
Artist: REY
Artist: WTA
Artist: NCA
Artist: KK
Artist: SLKK