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Artist: Murkrow (香港)

 

   この国の芸術というものは古来、実用性に重きを置いて発展を遂げて来ました。銅鐸や銅鏡に始まり、仏閣や城郭といった建造物や陶磁器、漆器。絵画も、基底材に襖や屏風が好まれたように、一定の用途に使用される「実用品」に装飾を施すことが基本でした。純粋に「鑑賞」を目的とした芸術作品が制作されるようになったのは、西洋芸術の洗礼を受けてからのことです。

  よって芸術は、限りなく「個」に特化した「私的」な存在、所有物であり、そもそも社会性を帯びる必要などどこにもありませんでした。美術品は武家や檀家、好事家といった特定のサークル内においてのみ愛でられ、評価されることを無上の喜びとする運命にあったわけです。こうした文化的土壌は、不特定多数の人々に人気が広まることを好まない現在のオタク文化にも相通じるものがあります。

そのため一度、社会性を謳えば、芸術性の伴わない陳腐な造形物と成り下がる傾向があります。明治以降、我が国にも様々なプロテスト・アートが生まれましたが、その殆どは矮小な世界観に固執する余り普遍性に欠け、純粋に芸術作品として国際的に評価された作品はほんの数えるほどしかありません。

 

  今、ミャンマー連邦共和国では、若手アーティストたちが治安当局の監視の目を掻い潜って『RAISE THREE FINGERS〜FOR DEMOCRACY』(民主主義を取り戻すために三本の指を掲げよう)といったサイトを立ち上げています。彼らは、「私たちミャンマーのアーティスト集団は、アートを通じて私たちが直面している恐怖を表現し、世界に向けて国民の声を届け、希望の雄叫びを共に挙げようとしています」と宣言し、「世界のアーティストにも三本の指を立てて、盗み取られた民主主義を奪還すべく、力を貸してもらいたい」と呼びかけています。「人権」と「自由」、「民主主義」を尊ぶ世界中のアーティストに広く門戸を開けています。ルールは唯一つ。三本の指を立てたサインを、絵画でも彫刻、アニメーション、歌、ダンスでも、ありとあらゆる表現方法を用いて制作し、SNS上で共有することです。

 

Artist: Bammer (ドイツ連邦共和国)

 

三本の指(Three Fingers)を立てる行為は元々、2012年に公開されたハリウッド映画『ハンガー・ゲーム』(The Hunger Games)から生まれました。近未来の独裁国家を描いた同作の中で、暴動を起こした住民たちが抵抗のサインとして掲げたこのサインは2014年、タイ王国で起こった反軍デモ、そして香港の雨傘運動でも実際に用いられるようになります。タイの人権運動家シラウィズ・セリティワット氏は、「映画で使われた反権威主義的なサインが、当時の若者たちの共感を呼んだ」と述懐しています。ミャンマーでは、医療従事者が初めてこのサインを掲げましたが、三本の指を立てるサインは、今やフィクションの世界を飛び出し、現実社会においても抵抗のシンボルとなっています。

 

Artist: 匿名 (ミャンマー連邦共和国)

 

残念ながら、このプロジェクトに参加している日本人のクリエーターは、現時点でたったの一人。こうした海外とのコラボレーションが苦手なのも、日本人の特徴として挙げられます。特にプロテスト・アートの分野においては前例がありません。国際的視野の狭さ、独りよがりな世界観がそうさせるのでしょうか。そこのアーティストを自称するあなた、手を、いや三本の指を高く挙げてみてはいかがですか? 世界は日の出を待っていますよ(The World Is Waiting For The Sunshine)。

 

こちらの画像をクリックすると『RAISE THREE FINGERS〜FOR DEMOCRACY』の公式サイトにアクセス出来ます。

 

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