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広島市は、都市作りの最高目標として、「国際平和文化都市」を標榜していたはずです。「平和」を軸に据えた豊かな「文化」を育み、広く「世界」へ伝える使命を担う、といった広島市の崇高な決意表明であると私は理解し常々、尊敬の念を抱いて来ました。それがどうでしょう。市民の”知の宝庫”である中央図書館を、まるでレンタル・ショップかの如く商業施設内に封じ込めるとは…。失礼ながら、”知性”の欠片も感じられないどころか、「文化」に対する”冒涜”とも受け取れます。

 

広島駅前にある「エールエールA館」の管理会社は、広島駅南口開発株式会社。株主構成が広島市68.38%、日本政策投資銀行10.79%、金融機関等12.58%、地元企業等6.68%、損害保険会社1.29%となっていることから、1988年に第三セクター方式によって設立された同社は、市職員の天下り先として機能している可能性は否定出来ません。2020年度の損益計算書を繙くと、同社の純利益は8,907万円。新型コロナウイルスの影響が大きかったとは云え、5年前の33,695万円から大きく落ち込んでいることがわかります。

そのため、起死回生の”キラー・コンテンツ”、有力かつ安定的なテナントを探していることはわかります。しかしながら、それは果たして中央図書館なのでしょうか? 福屋広島駅前店がメイン・テナントであるA館の店舗面積は4万平方メートル余り。延べ床面積約1万平方メートルの中央図書館が移転して来るともなれば、テナント構成も大きく変わることとなるでしょう (同館10階には、常時80万冊の実在庫を誇る大型書店ジュンク堂書店広島駅前店も入居しています)。広島駅と歩行者専用橋によって繋がることで、より収益性の高いテナントを、営業努力次第で他にも招致することは可能なのではないか? そもそも第三セクターに対して、市が賃料を支払うといった構図は正当と云えるのかどうか?

 

確かに図書館にとっても、多数の市民が利用しやすくなる「利便性」を高めることは重要です。しかしながらそれは、コンビニエンスストアと同じ意味合いの「利便性」ではないはずです。前稿で記した通り、公共図書館には、「一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資する」といった目的があり、これが第一義です。優先順位を取り違えてはなりません。

「いやいや。今の時代、駅周辺に図書館を設置する地方自治体は少なくない」といった愚にも付かない弁解も聞かれます。例えば、JRの駅ビルや駅前の複合ビルに公共図書館が入っている兵庫県・明石市や茨城県・土浦市が屡々引き合いに出されます。しかしながら私は「だから?」と云いたい。明石市の人口は30万4356人(2022年)、土浦市は13万7898人(2020年)。人口119万4614人(2021年)の政令指定都市である広島市とは土台、規模や社会環境が異なり、比較対象にさえなりません。

問題は、そうした些細な”目先の事情”ではなく、「文化」というものを広島市、そして市民がどのように捉えているのか、といったヴィジョンの有り様です。また、いみじくも”コミュニティの創造”を公約に掲げた市会議員も、果たしてコミュニティの真の意味を理解しているのかどうか? これからの公共図書館は単なる”ハコ物”に留まることなく、地域コミュニティのセンターとして機能する、またはそのように活用すべきと書きましたが、次回はその具体例をご紹介しましょう。

 

現在、広島市では今月14日(金)まで、『「広島市立中央図書館等の再整備について」に対する市民意見募集』を行っています (https://www.city.hiroshima.lg.jp/houdou/houdou/256478.html)ご意見がある、疑問を感じる「広島市民」は是非、手遅れとなる前にあなた自身の考え、要望を市に伝えて下さい。