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昨年10月に開催された『戦争と平和を考える子どもの本展 in 広島2021』において講演をさせて頂いた際、お世話になった広島市在住の子どもの本作家 中澤晶子さんらが「こども図書館移転問題を考える市民の会」を起ち上げ、広島市中央図書館に隣接する「広島市こども図書館」のエールエールA館への移転に反対する署名活動を行っていらっしゃいます (今月31日まで)。

同氏の主旨は、『中國新聞』の「今を読む」欄に寄稿された一文に(今月8日付)、明快に記されていますので、是非ともご一読下さい。私も拙著『平和の栖〜広島から続く道の先に』の執筆にあたり、こども図書館の設立経緯ならびに広島駅南口開発株式会社の成り立ちを取材したことから本稿では、中澤さんが文字数の関係で書き切れなかったであろうポイントを、僭越ながら幾つか補足させて頂きます。

 

まず、中澤さんが全国でも珍しいと言及されている「広島市こども図書館条例」とは、昭和24年7月30日に公布された広島市条例第34号の2で、同28年4月1日に改正された(条例第19号)その第一条には、「児童及び生徒の教養の向上及び福祉の増進に資するため、広島市こども図書館を設置する」と謳われています。つまり、読書によって得られる「教養」のみならず「福祉」も、その「目的」に含まれていることがわかります。これは、当時としては極めて先進的な考えであったと云えるでしょう。

昭和24年と云えば、「広島平和記念都市建設法」が公布された年で、同市が戦後復興の鳥羽口に立った時期と符号します。この年には、広島市公民館条例(条例第44号)も公布されるなど、民生に関わる基礎作りが積極的に進められており、貧しいながらも”民主主義”の目映い光が感じられた時代であったことが窺われます。

 

また、条例が改正された年の12月に竣工した「広島市児童図書館」は、米カリフォルニア州の南加広島県人会(明治43年発足)からの多大な寄付によって建設されたことを知るひとは、広島でも多くはありません。

昭和22年に、日本製品の買い付けのためバイヤーとして訪広した熊本俊典氏が広島の惨状を16ミリカメラに収め、県人会の役員会でこの映像を見せながら郷土の救済を提案。満場一致で採択されたのを受けて、会長の高田義一氏を中心に「原爆被害者救援会」が発足しました。

彼は地元の日系新聞『羅府新報』に、「(戦争被害という意味では) 在米同胞も故国の人々と何ら異なる所はありませんが、私達は幸にも物資豊かな米国に在つて、同じく復興線上を辿りながらも、故国の現状に比ぶれば、天地雲泥の相違が其間に認められるのであります」と綴り (昭和23年2月25日付)、「郷里救済の一大運動」への参加を呼びかけています。

その結果、僅か1週間で4,800ドル。同年8月までには総額1万2,000ドルもの募金が広島県出身者から集まりました。戦時中はカリフォルニア州を始め米西部 5州に居住していた日系人も、ほぼ財産放棄の状態で強制収容所に収監されていたため、戦後の生活は決して楽ではありませんでした。それでも故郷のためにと、なけなしの生活費から工面した文字通りの「義金」だったと云えるでしょう。

 

当初は、似島学園や五日市戦災児童育成所などに救援物資を送っていたものの、荷が届かない、紛失するといった事案が頻発したため、高田氏が当時の浜井信三市長に相談したところ、児童文化図書館の建設支援を提案されたため、昭和25年1月に400万円を寄付することとなります(5月に広島市が受領)。

この時に建設されたのが建築家 丹下健三氏によって設計された鉄筋コンクリート2階建て一部鉄骨というモダンな建造物でした (総工費753万5,000円。昭和55年に改築工事が行われて現在の姿に。館名も「広島市こども図書館」に改められています)。

 

このように広島市の児童図書館は、他の自治体のものとは異なる特異な歴史を辿っています。旧・図書館そのものは現存しないため、建築自体に歴史的価値はありませんが、中澤さんが指摘されている通り、「条例の異なる中央図書館とセットで移転し、『児童コーナー』や『児童室』にすることは、積み重ねてきた実績と歴史」に反すると云えます。

一方で、中央図書館とこども図書館の措置を「分離」して検討することも現実的ではないため、様々な選択肢を官民一体となって出し合い、議論を尽くした上で広島市には、市民のニーズに資する施策を打ち出して頂きたいと切に願うものです。

 

ネットでも署名は行えますので、ご賛同のほど宜しくお願い致します (https://www.change.org/p/広島市長-松井-一實-様-広島市議会議長-佐々木-壽吉-様-私たちは-広島市こども図書館-のエールエールa館への移転に反対します)。また、広島市民の皆様は来月7日に開会する広島市議会第2回定例会、18日からの予算特別委員会に向けて、選挙区の市議会議員に陳情し、市民の要望を市政に反映して頂くよう働きかけてみて下さい。今後1ヶ月間で、中央図書館とこども図書館、映像文化ライブラリーの命運は定まります。