1857年に開館した大英博物館図書館の荘厳な円形大閲覧室(1973年から1997年までは大英図書館・中央閲覧室)。
今回の広島市中央図書館の移転問題は元より、私が残念でならないのは同市の都市再開発計画に、ヴィジョンといったものがまったく感じられない点です。新サッカースタジアムの建設はさて置き、広島商工会議所も然り。老朽化ならびに耐震改修によって、移転もしくは大規模工事に踏み切らざるを得ないことは、10年も前にはわかっていたはずです。ならばなぜ、「歴史・スポーツ・文化芸術ゾーン」と位置づけられたこのエリア全体の合理的かつ健全な高度利用を図るべく、グランドデザインを立案して来なかったのか。全く以て理解に苦しみます。近年、広島市中心部の再開発において、これほどまでのビッグチャンスはなかったはずです。この街を一体どうしたいのか? どうすべきなのか? 長期的視野に立ったヴィジョンがなければ、個性無きのっぺらぼうな街に成り下がるだけです。
広島市は、かつてこうではなかった。拙著『平和の栖〜広島から続く道の先に』で綴ったように終戦直後、文字通りの”七人の侍たち”が、換地を迫られた市民の怨嗟の声を背に受けながらも、焦土と化したこの街を「復興」すべく、死力を尽くして都市再生計画を推し進めました。政令指定都市づくりの基礎を固め、広島平和文化センターを発足させた山田節男市長もまた、志半ばで潰えたとは云え、大広島計画の基本構想として精緻に築き上げられた「広島市総合計画」を、市議会の反対を浴びながらも策定しています。事の善し悪しはさて置き、そこには広島市を広島市たらんとする明確なヴィジョンがあり、つぎはぎだらけの再開発を良しとしない広島もんの矜持がありました。
翻って、現在の市政はどうでしょう。国から地方への税源移譲を勝ち取るべく積極攻勢をかけるわけでもなく唯々、JR広島駅周辺や紙屋町・八丁堀地区のように、国によって税制支援が得られる「都市再生緊急整備地域」に指定されなければ動こうともしない (広島県マターとは云え、国の重要文化財指定をもくろむ被服支廠倉庫の保全問題も同じくです)。
『広島市総合計画』(広島市基本構想/第6次広島市基本計画 2020年- 2030年)には、「世界に輝く平和のまち」、「国際的に開かれた活力あるまち」、「文化が息づき豊かな人間性を育むまち」といった聞き心地の良い文言が踊ってはいるものの、抽象論に終始し、広島ならではの具体的な方策はこれっぽっちも打ち出されていない。地方自治体が国の”下請け”となっては、個性豊かな地域文化の創造など、絵に描いた餅と云わざるを得ません。
特に、”知の殿堂”たる中央図書館を、まるでレンタルショップの如く軽々しく扱っているようでは、”国際平和文化都市”の名が廃ります。私は、中央図書館は市中心部にありながらも比較的自然環境に恵まれ、原爆ドームとも近接した現在位置に再建すべきと考えます。
とは云え、図書館を新たに建設するともなれば膨大な費用が必要となります。一例として、高知県と高知市がスクラムを組んだ「オーテピア」(OTEPIA)が挙げられるでしょう。「オーテピア高知図書館」と「オーテピア高知 声と点字の図書館」、「高知みらい科学館」といった3つの施設から成る中四国最大規模を誇る複合施設として2018年7月24日に開館した「オーテピア」は、全国初の県市合築としてつとに有名です(このブログをご覧の広島市議会議員の皆さんは是非、同館を視察されることをお勧めします)。
『オーテピア高知図書館』の広々とした書架スペース。
多目的広場・遊歩道を含む敷地面積は6,605.76平方メートル。延床面積が22,765.93平方メートル(機械式地下駐車場は除く)の「オーテピア」建設に要した総事業費は145億9,400万円にも上っています (内、県市の実質負担額は合計58億9,600万円)。決して小さな数字ではありませんが、「これからの高知を生きる人たちに力と喜びをもたらす図書館」といった基本理念に基づき(岡崎誠也高知市長談)、官民一体となって地域社会の発展に賭けた意気込みがひしひしと感じられます。
広島市関係者は、これまで黙りを決め込んでいたにも関わらず「そんな金なんぞ、どこにもありゃあせん」と、口を揃えることでしょう。では、広島市の場合はどうすべきなのか? 次回では私論、いや天下の暴論を敢えて披瀝させて頂きます。いいですか。何よりも大切なのは (そして広島市に欠けているのは) 地域に密着した「斬新な発想」と、それを受け入れないまでも検討に付す「懐の深さ」です。
高知県高岡郡檮原町にある『ゆすはら 雲の上の図書館』のウッディな内観 (設計 隅研吾)。
こども図書館移転問題を考える市民の会では、今月28日(月)まで、自筆署名を受け付けています(郵送のみ)。広島市民の皆様は選挙区の市議会議員に陳情し、本日から始まる予算特別委員会において市民の要望が市政に反映されるよう働きかけて下さい。今後1ヶ月以内に、中央図書館とこども図書館、映像文化ライブラリーの命運は定まります。