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ロシア連邦軍のウクライナへの軍事侵攻によって、まさに最悪の事態が進行しつつあります。同国における原子力発電所の現況をこのブログでお伝えしようとしていた矢先に、ウクライナ南東部にある欧州最大級のザポリージャ原子力発電所 (Zaporizhia Nuclear Power Plant ) がロシア連邦軍の攻撃を受け、目と鼻の先にあった教育訓練棟から火災が発生するといった深刻な事態に陥りました。その数時間後に同・発電所はロシア連邦軍によって制圧され、ひとまず交戦は収まったものの、まだまだ余談を許さない状況が続いています。私たちは今、キューバ危機を遙かに凌ぐ危機的状態に直面しています。

 

ロシア連邦軍は侵攻初日の先月24日に、ベラルーシ共和国との国境にほど近いチェルノブイリ原子力発電所をいち早く占拠しましたが、これは軍事戦略上は正しい (廃炉となり、石棺に塞がれた同・発電所には、依然として大量の放射線物質が充満しています)。と云うのも、原発を巡る攻防ともなれば、原子炉が被弾する危険性が極めて高い。つまりは核兵器使用に近しいレベルの惨禍を生むリスクがあるため、相手の迎撃態勢が整う前に電撃的に制圧し、コントロール下に置かなければなければなりません (電源を失う、身の危険を感じた職員が逃亡する、使用済み核燃料の保管施設が被害を受けた場合においても”メルトダウン”を起こす可能性は十分にあります。また、自暴自棄となった”愛国者”が自爆テロを起こさないとも限りません)。

 

尤も、米国と同じく80年近くにも及ぶ核兵器開発・製造の歴史を持つロシア連邦は、放射線被曝による健康、財産、環境への被害の深刻さをある程度までは把握しているため、万が一にも原発を攻撃目標とすることはないでしょう (下図を見て頂ければわかるように、チェルノブイリ原発事故を凌駕する大規模爆発・崩壊が起これば、放射能汚染は首都モスクワにまで及びます)。

しかしながら、戦闘状態に突入すれば想定外のことが屡々起こり得ます。それが戦争というものです。特に、今回の侵攻によって、ロシア連邦軍が保有する短・中距離弾道ミサイル、巡航ミサイルの精度が思いの外、低いことが明らかとなっただけに先週来、私が最も危惧していたのが戦時下における原子力発電所の置かれている状況です。

 

 

忘れてはならないのは、今回のロシア連邦軍によるウクライナへの軍事侵攻は歴史上初めて、原発を保有する国が「戦場」となっている点です。ウラジミール・プーチン大統領が核のボタンを押すか押さないか、といった高度な政治的判断以前の問題で、ほんのちょっとした誤爆によっても、欧州全域が一瞬にして”墓場”となる怖れがあるということです。パリもベルリンも、ミラノも、モスクワまでもが立入禁止区域となり、文字通り、欧州の歴史が終焉を迎えるかどうかの瀬戸際とも云えるでしょう。

 

ウクライナには現在、(廃炉となったチェルノブイリ原子力発電所以外に) 原子力発電所が4カ所あり15基の原子炉が存在します (内、6基がザポリージャ原子力発電所)。詳細は【後編】で綴りますが、戦時における唯一の被爆国であり、福島第一原発事故も経験した我が国は、ロシア連邦の軍事侵攻をより強硬に非難し、とりわけ原子力発電所への攻撃を速やかに停止させるようあらゆる努力を払うべきです。傍観者であって良い理由は、ただのひとつもありません。ウクライナ一国の問題ではなく、一瞬のヒューマンエラーによって何千年、いや何万年もの災厄が全人類に降りかかる可能性がある。その点において今回の「戦争」が、今までとはまったく性質の異なるものであることを、私たちはしっかりと認識しておく必要があります。