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   現実的な話をしましょう。現在、戦闘中のロシア連邦とウクライナの停戦協議は暗礁に乗り上げています。双方の主張が真っ向から対立しているため、妥協点を見出すのは至難の業とも云えるでしょう。まずもってロシア連邦は、ウクライナの中立・非武装化を求めていますが、ロシア経済のデフォルトがほぼ確定的であるため、ウクライナとしては一刻も早く欧州連合(EU) に加盟し、自国の自主独立を守るべく北大西洋条約機構(NATO) にも加わりたい、というのが本音でしょう。そもそも数年後、「ロシア連邦」という国家そのものが存在しているかどうかもわからない。沈み行く船にしがみつく理由など、これっぽっちもありません。

 

   ところがそうは問屋が卸さない。国境を接するウクライナがNATOの一員にでもなれば、ロシア連邦は安全保障上、喉元に匕首を突きつけられたようなものです。これだけはどうしたところで譲れない。力づくでもウクライナをロシア連邦の影響下に留まらせ、世界最大級の穀物供給地域と天然ガスの輸送路を押さえると共に、外海へのゲートウェイである黒海の制海権も死守しなければならない。まさにウクライナの行方は、ロシア連邦にとっても死活問題であるため、譲歩の余地などありません。

  「ならばNATOや米国が派兵して、ウクライナを窮地から救い出せばいいではないか」と云うのは素人考えで、NATOが介入すれば間違いなく第三次世界大戦が勃発してしまいます。極めてセンシティヴな状況であるため、ロシア連邦が常任理事国に名を連ねる国連も、なかなかリーダーシップを発揮し辛く、八方塞がりの状態になりつつあります。このままでは、停戦協議は何度開いたところで平行線を辿るばかり。その間に、ウクライナのみならずロシアの尊い命も数多く失われて行きます。

 

   そこで日本です。極東の島国から何しにやって来た、と訝しがられようが、岸田文雄総理大臣は今こそしゃしゃり出て、仲介役を買って出るべきでしょう。日本如きに何が出来るのか? 両国が辛うじて合意出来る余地があるとすれば、NATOとロシア連邦との間にバッファーゾーンを設けることです。ウクライナを経済的にも軍事的にも半永久的にニュートラルな緩衝地帯・非武装地帯とする。(ロシア連邦のウクライナへの軍事侵攻以来、急速にNATOに接近しているとは云え) かつてのフィンランド化、いわゆるノルディックバランスの復活です。しかしながら、冷戦時代のロジックは最早通用しない。ではどうすればいいか? そう、ここで登場するのが「日本国憲法」です。

 

   両国に対して日本国憲法をプレゼンし、そのエッセンスを停戦後の合意文書に活かしてはどうかと提案する。突拍子もないアイデアのように思われるかも知れませんが、意外に和平の突破口となり得ます。私は拙稿『日本国憲法に勝るコンテンツはない』 (2020年9月11日付) の中で、「戦後、日本が生み出した世界に誇れるコンテンツで、人類史に貢献出来る、といった大局的な観点から云えば日本国憲法。これしかありません」と書きました。

特に第九条 (戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認) にある「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と (2)「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」は、NATOとロシア連邦に挟まれ、地政学上のホットスポットとして長年苦悶し続けて来たウクライナに、明確な指針を与えることとなるでしょう。

 

この国の改憲派、護憲派は双方共に、世界共通語である英語すら満足に話せない輩が滔々と説く、「日本国憲法は、我が国を取り巻く国際環境の変化について行けていない」といった稚拙な言説に惑わされ、ちっぽけな”ガラパゴス島”の中でああだこうだと不毛な議論を重ねて来ました。いいでしょう。では、世界が注視しているウクライナで、本当に時代遅れの条文なのかどうか、怖れることなく国際舞台で判断してもらおうじゃありませんか。

 

今後、ロシア連邦が崩壊し、米国もまた孤立主義 (Isolationism) を深める中、世界各地で地域紛争が頻発する可能性がつとに高まっています。そうした諍いに飽いた国々の”復興”の足がかりとなる”叡知”を、この憲法は指し示すに違いありません。日本国憲法は、この国が有する唯一の”倫理的輸出品目”です。前文にある「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」といった理念を実践する千載一遇のチャンスではありませんか。

これまで我が国の支援はが見えないと云われ続けて来ました。それは何も「金だけ出して、血を流さない」ということではありません。そこに哲学がなかったからに他なりません。さぁ、岸田クン。今こそ日本人としてのプライドを胸に、平和のとりでを築くべく真の国際貢献を目指してウクライナへ。