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広島市中央図書館の再建・移転問題は残念ながら、要は「お金」の問題です。同館の移転費用を含む2022年度一般会計当初予算案が広島市議会の本会議で可決されたため最早、情緒的な移転反対論議をいくら重ねたところで、現状を変えることは出来ません。官民一体となった打開策を施さなければ、遅かれ早かれ中央図書館は「死」を迎えることとなります。

 

広島市としても、さすがに渋谷区立渋谷図書館のように「廃館」といったアナーキーな施策を打ち出すことは憚れる。とは云え、現地建て替えであれば123億円。広島市が目指すJR広島駅前の商業施設エールエールA館への移転でさえ96億円もの税金を投入せざるを得ない事態に直面しています。さらにはエールエールA館を所有する第三セクターの広島駅南口開発 株式会社 (市の出資比率は 63.1%) の積もりに積もった負債も解消しなければならない…。

ちなみに同社の有利子負債は令和2年度段階で、約165億5,587万円にも上ります。また、公的支援の貸付金残高は41億5,000万円、出資金残高は37億6,150万円で何と計79億1,150万円。これを受けて昨年2月には、不本意ながらも市は貸付金の金利を下げ、利息6億6,000万円を放棄せざるを得ませんでした。台所事情の厳しい広島市としては頭が痛いところでしょう。

 

市は、同館の3フロアを60億円で買い取ることで少しでも財務状況を立て直したい。気持ちはわかります。しかしながら、ここまで来れば抜本的な経営改革なくして再建は難しいどころか、中央図書館を移転させたところで焼け石に水。結果的に”共倒れ”となることは火を見るよりも明らかでしょう。

エールエールA館の立地条件は確かに広島一です。新駅ビルと歩行者専用橋が繋がれば、市が唱える”利便性”も高まるでしょう。であればここは、三顧の礼で民間からカリスマ再建請負人を招き入れ、”聖域なき構造改革”を断行して頂いてはいかがでしょうか? 現状でさえ約20億円の総収入はあるため、ビジネスマインドを持った凄腕であれば5年もあればバランスシートの改善をやってのけるかも知れません。そもそも広島駅前再開発の主目的は、「稼げるまちづくり」を見据えた地域経済活性化だったのではありませんか? (云うまでもなく、公共図書館からは何ら”収益”は得られません。よって税収アップや雇用促進にも繋がりません)

 

他方、中央図書館の再建または移転に伴う資金調達については、何も広島市だけで背負う必要はないはずです。個人的には、なぜこの案件について地元財界が腰を上げないのか、不思議でなりません。先にも綴ったように公立図書館は単なる「本の置き場所」ではありません。各社の将来を担う人材育成にはなくてはならない”知の殿堂”です。

それでなくとも広島は、若年層を中心に県外流出が全国でもトップクラスとなっています (2021年の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、広島県の転出超過は全国で最も多い7,159人)。勉学も研究も十分には出来ない地元に、若者たちは希望を見出せるでしょうか? 此の地で自らの夢を実現出来ると思うでしょうか? 優秀な若手人材の流出に歯止めがかからない、やがて地元企業の経営基盤が脆弱化し、結果的に広島市も縮小する、といった悪しきスパイラルを食い止めるためにも、地元財界の積極的なコミットメントが求められます。

 

市民も、高みの見物では困ります。子どもたちの将来のために、ここぞとばかりに”樽募金”を行ってみてはいかがでしょうか? 金額の多寡ではなく、こうした行為そのものが、市民の意識改革にも繋がります。大切なのは、皆で考え、皆で議論し、皆で具体的かつ現実的なプランを構築するといった一連のプロセスです。とは云え、これだけで必要とされる膨大な資金を捻出出来るわけではありません。はてさてどうしたものか。

 

飽くまでも私見ですが、広島出身者は他府県人と比べて、Uターン率が極めて低いように見受けられます。口では”広島愛”を叫んでいながらも、東京や大阪で身につけた技術や知識、資本を故郷に還元しようといった意欲が甚だ薄い。これでは広島経済が先細りするのもやむを得ません。

そんなあなたに耳寄りな方法があります。まずは企業版ふるさと納税。自社の創業地であったり経営者の出身地への恩返しには最適の”投資”です。最大のメリットは、寄付の90%について税金が軽減されるといった点にあります (法人住民税は寄付額の40%が税額控除、法人税は、法人住民税が寄付額の40%に達しない場合には、残りが税額控除されます)。返礼品は禁止されているため、市にとっても有り難い”応援”となります。また企業にとっては、企業イメージの向上のみならず、広島市との関係作りには効果的な方策となるでしょう。

 

   さらには、海外の国債市場でも注目を集めるESG債の発行が考えられます。ESGとは、「環境」(Environment)、「社会」(Social)、「ガバナンス」(Governance)といった要素を重視した自治体に対する投資です。つまり、ESGに使途を限定した地方債となります (ご周知の通り、地方債の発行は県もしくは政令指定都市に限定されています)。中央図書館の再建・移転問題は、社会貢献といった観点からソーシャルボンドに値するでしょう。

   国内においては、東京都が初めて環境に配慮した事業に対して資金を充当するグリーンボンドを起債し(2017年)、長野県、神奈川県、三重県がこれに続き、政令指定都市では川崎市や北九州市、福岡市もESG債を発行しています。企業版ふるさと納税と併せて「中央図書館の再建・移転」に特化したESG債を広島市が発行することで有効な資金調達手段を得ることが出来ます。

但し、「図書館を商業ビル内に移転する」といった経済効率の極めて悪い付け焼き刃の案件になど、目の肥えた投資家たちは見向きもしないでしょう。「ピンチ」を「チャンス」に変える、まさに全国の地方自治体のお手本となるような目から鱗が落ちるような社会資本の活性化案があって初めて資金は集まります。

 

云うまでもなくこれら難題をすべて、一気に解決する妙案など、どこにもありません。しかしながら、少なくとも「縦の発想」に固執するのではなく「横の発想」も柔軟に採り入れ、丹念に織り上げなければ、突破口など見出せないことだけは確かです。市民も、複雑に絡み合ったこうした現状から目を背けることなく、包括的な解決策を模索、提案しなければ単なる烏合の衆に終わってしまいます。広島市が、そして広島市民が新たなアイデンティティを構築出来るかどうか。この事案もひとつの試金石となるでしょう。