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新サッカースタジアムの完成予想図

 

はてさて、広島市中央図書館再建・移転問題における広島市の懸案事項を要約すれば、詰まるところ 1) 再建・移転先、2) 再建・移転にかかる費用、3) 広島市中央公園内における公共建造物の容積率削減、の3点に絞られます。

広島駅南口開発 株式会社の経営再建問題とは、ひとまず切り離して考えましょう。 と云うのも、真っ当な企業経営者らに中央図書館のエールエールA館への移転について賛否を問えば十中八九、一石二鳥ではなく二兎を追う者は一兎をも得ず、との回答を得るに相違ないからです (理由は前回の連載⑧をご一読下さい)。

 

上記 3点を踏まえた上で、誰もが納得し得るような最適解を求めることは容易ではありません。前々回のこの連載⑦では、現在建設中の新サッカースタジアム内に中央図書館を移転してはどうか、といった突拍子もないアイデアを披瀝しましたが、同スタジアムはすでに着工されているため時既に遅し、現実的とは云えません。となれば、123億円を投じて建て替えるか、エールエールA館への移転といった二者択一しか道は残されていないのでしょうか?

ちょっと待って下さい。今一度、広島市中央公園周辺の地図を見てみましょう。ありました。まだ再開発が可能なスペースが。

 

ご周知の通り、サンフィレッチェ広島のホームとなる新サッカースタジアムは、再来年の開業を目指して着々と工事が進められています。約3万人の収容能力を誇る国内有数のスポーツアリーナが誕生する予定です (7階建て。延べ床面積約60,000平方メートル)。改めて同・整備事業の基本設計を見てみましょう。

サッカースタジアムを除く公園区域の西と東側には「広場エリア」(基盤整備) が設けられています(整備面積約35,700平方メートル)。特に東側の「芝生広場」の面積は約12,000平方メートルという広大なスペースで、「防災や環境に配慮した次世代の都市公園」と位置づけられています。

市民の憩いの場となる緑に囲まれたオープンスペースを都市部に設けることには大きな意義があります。イベントスペースとしても十分に機能することでしょう。とは云え、市中心部に単なる”芝生公園”を作るだけではいかにも勿体ない。

 

そこで、このまだ着工前の「広場エリア」に、中央図書館を移転してはいかがでしょうか? 連載⑦と同じく、地下1階と盛り土によって地上1階を”増設”し、そこに中央図書館を移す。屋上部分は事業計画通り緑化し、芝生公園にするといったアイデアです (地下1階は書庫・所蔵庫および映像文化ライブラリーや会議室とし、地上1階には閲覧スペースとこども図書館)。大規模な基礎工事を伴う新サッカースタジアムとは異なり、「公園エリア」はオープンスペースであるだけに、設計変更もまだ辛うじて間に合うはずです (一部を切り取り保存された中国軍管区輜重兵補充隊厩舎の遺構も、地下構造にすればそのまま地階にて展示可能となります)。

 

この案を採用すれば、1) は自ずと解消出来ます。2) については、土木工学の専門家に費用計算を行って頂く必要がありますが、エールエールA館への移転費用96億円と比較しても、少なくとも不動産取得に要する60億円 (土地資産35億円を含む) はゼロとなるため、新設でありながらも、例え費用が膨らんだところで50億円以内には収まるでしょう。

3) については云わずもがなです。現在、中央図書館が立地しているスペースは空地となるため、ここに”文化の香り”が必要とあれば、最新の音響施設を有した市営の音楽専用ホールを建てれば良いでしょう。また、これら新設の文化施設については中央公園内に位置しているため、場合によっては国土交通省・都市局 公園緑地・景観課が推進する公募設置管理制度 (Park-PFI) を利用し、民間事業者に設置・管理を委託することも可能です (コンサートホールなどは性質上、市が自ら運営するよりも民間委託の方が効率的でしょう)。

 

ここで疑問なのは、市は中央図書館の移転を最優先としているにも関わらず、跡地利用計画がまったく策定・公開されていない点です。移転を選択するにせよ、ではその跡地はどうするのか? 利活用計画もセットで提示して頂かなければ市民のニーズ、費用対効果なども含めて適切な措置なのかどうか? 比較検討の仕様がありません。それとも何でしょうか? 適切な利活用法が出て来るまで (広島大学旧理学部1号館や被服支廠倉庫と同じく) 5年、10年、野晒しにしておくおつもりでしょうか。

 

耐震構造を施した地下階に書庫・収蔵庫を設置すれば、床の積載荷重を心配する必要はまったくありませんし、空調機を設置することで低温低湿の書庫環境も保つことが出来ます。芝生公園の下では閲覧スペースに陽が差さないのではないか、とご心配の方もいらっしゃるでしょうが、そこはデザイナーの腕の見せどころです。

例えば仏パリにある世界最大級の国立美術館 ルーヴル美術館は、元々12世紀に建てられたルーヴル宮殿をベースにしていますが、中庭に位置するナポレオン広場にはガラスと金属で作られた3つのピラミッドが設置されています (設計 イオ・ミン・ペイ 1989年)。このピラミッドはメイン・エントランスとして機能し、広々とした地下ロビーから美術館本体へ移動する構造になっています。歴史的建造物を保存しつつ、新たな時代に則したニーズを付加して活性化するヨーロッパ文化の真骨頂とも云えるでしょう。「文化」というものは、スクラップ・アンド・ビルドで生まれるものではありません。「歴史」に敬意を払いつつ「現代」に適用させることで初めて、「文化」は「時代」を生き抜くことが出来るのです。

 

仏ルーヴル美術館のルーヴル・ピラミッド

 

その意味においても、この連載⑦でも綴ったように「スポーツ」と「文化」施設のコラボレーションは、世界的にも極めて珍しく、間違いなく国内外から注目を集めることとなるでしょう。市民の”知の拠点”である中央図書館の再建・移転問題は、単なる”ハコ物”の処遇には留まらず、広島市のアイデンティティを改めて考え、再構築する千載一遇のチャンスとなり得ます。さぁ、あなたのアイデアを聞かせて下さい。反対するだけなら誰にでも出来ます。物事を動かすためには自ら考え、「0」から「1」を産み出すことから始めなければなりません。

 

  • こども図書館移転問題を考える市民の会は、来月31日まで移転に反対する署名を受け付けています(https://www.change.org/p/広島市長-松井-一實-様-広島市議会議長-佐々木-壽吉-様-私たちは-広島市こども図書館-のエールエールa館への移転に反対します?utm_content=cl_sharecopy_31903110_ja-JP%3A6&recruiter=1244191089&utm_source=share_petition&utm_medium=copylink&utm_campaign=share_petition)。