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前回のこの連載では、広島市中央図書館の再建・移転について私案を綴りました。老朽化が進む同館ならびにこども図書館、映像文化ライブラリーを現在地から撤去し、新たに新サッカースタジアムの東側に設置される「芝生公園」へ移転させるという一見、荒唐無稽なオリジナル・プランです。

 

去る17日、広島市青少年センターで開催された『図書館移転を考えるトークイベント2022』の基調講演でも同案を披露させて頂きましたが皆さん、想定外のアイデアに一様に驚かれたようです。

僭越ながらこの独自案は、同館の再建・移転問題にかかる主な懸案事項であるところの 1) 再建・移転先、2) 再建・移転にかかる費用、3) 広島市中央公園内における公共建造物の容積率削減 (広島駅南口開発 株式会社の経営再建問題は除くを一挙に解決出来る唯一の方策ではないかと考えます (同案は現在、各方面において共有して頂いております)

さて、ここまでは技術・財政面に着目した解決策です。では、広島市ならではの”知の拠点”、中央図書館再建の”理念”についてはどうか。先の講演で初めてお話させて頂きましたが、「芝生公園」に中央図書館を移転すれば、実はちょうどその上を”平和の軸線”が縦断することとなります (図版①参照)。

 

 図版①

 

平和の軸線”は、1949年に公布された広島平和都市建設法に則り行われた平和記念公園および平和記念館の設計コンペで1位を獲得した丹下健三氏が、そのデザインの基本に据えたコンセプトです。彼が提唱した”平和の軸線”は、広島平和記念資料館本館下から原爆死没者慰霊碑 (広島平和都市記念碑) を通過し、原爆ドームへ至る南北軸 (北に伸ばせば阿武山の山頂に到達します)。最近では、広島市内でロケが行われ、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(監督 濱口竜介)に登場する広島市環境局中工場 (設計 谷口吉生) が、この軸線の南端に位置することを主人公の専属ドライバーとなった三浦透子さん演じる渡利みさきが語るシーンが話題となりました。

例えば私のプランでは、盛り土された地上階の屋上は計画通り、「芝生公園」とするわけですが(図版②参照)、”平和の軸線”上に沿って、硬質ガラス製の天窓を一直線に設えれば、自然光も採り入れられます (幅 約3メートル、長さ 約30メートル)。また、帳が下りれば室内の灯りが外に漏れ、くっきりと”平和の軸線”を映し出すことも可能でしょう (従来の”平和の軸線”は、飽くまでも想像線であり、目視することは出来ませんでした)。

 

 図版②

 

平和記念公園を中心としたこのエリアを「平和を創り出すための工場」と位置づけた丹下氏は、私と同じく広島出身ではないアウトサイダーでしたが、客観的な視点から同市のあるべき姿を見抜き、戦後復興の軸に据え、建築物として残しました。このブログでも再三、指摘していますが、「被爆者なき時代」を迎え、「被爆」と共に歩んだ広島市は戦後初めて、そして最大のアイデンティティの喪失に直面しています。

今こそ、広島市民は戦後復興の原点に立ち戻り、かつての理念を今一度咀嚼し、新たなアイデンティティを構築すべき刻が差し迫っています。丹下氏は、「平和は訪れるものではなく、実践的に創り出すもの」とも書き残しています。市民にとっての”知の拠点”であり、地域コミュニティの中軸ともなるべき公共図書館の再建を、是非とも広島市再興の起爆剤として頂きたい。

 

云うまでもなくこの私案は、専門家の手により工法、デザインから必要経費、法的妥当性等々を精査・調査して頂く必要があります。しかしながら、私が恥ずかしげもなく独自案を提起した最大の理由は、何よりもエールエールA館への移転か再建か、といった狭量な二者択一の議論に一石を投じ、「こんな考えがあってもいいんだ」、「私であればこんな図書館が欲しい」といった自由で独創的な発想を広島市民から引き出す”呼び水”になれば、と考えたからに他なりません。移転に反対するのであれば、市の提案をあらゆる面で凌駕する優れた再建案を打ち出さなければなりません。さぁ、あなたが考える広島市ならではの理想的な公共図書館とは?