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菅笠の旦那、確かにね。学者ほど面倒な輩はいやしませんぜ。あっしもね。石を投げりゃあ学者にぶち当たるような環境で育ったもんですから、よっくわかります。

 

学者なんざぁ、とにもかくにも世間知らずが服を着て歩いているようなもんだ。いつも左右の靴下の柄が違う、なんて程度のことで驚いていたんじゃあ学者とは付き合えない。普段は借りて来た猫のように大人しいのに、こと専門分野の話となると、まるで明石家さんまに取り憑かれたかの如く饒舌になる。そりゃね。朝から晩まで文献とにらめっこしている輩が大半ですからね。浮世離れした御仁も少なくないですよ。でもまぁそりゃ、ご愛敬ってなもんだ。経済再生を最優先に、なんてのたまう旦那だってキャベツの値段は知らんでしょう。

 

ただね、菅笠の旦那。学者を舐めちゃあいけませんぜ。人類の歴史なんざぁ、云ってみりゃあ無駄の集積だ。考えてもみなせぇ。この地球上にゃあ、70億もの人間が住んでいる。でね。ホモサピエンスとやらが誕生してからこの方、ざっと見積もっても 6,000億人もの人間様が起居してた計算になるわけですよ。その内、人類の歴史に名を残した者なんざぁほんのひと握り。0.00001%くらいのもんでしょうよ。ならばその他 99.99999%はゴミかと云うとそんなこたぁない。名もない人々が命を削って悩み、苦しみ、考えて、今のこの世の中があるわけだ。単なるバカの集まりじゃあ、とっくの昔に人類は滅びている。

 

学問ってぇのはね。こういった無数の人々の無駄な努力を掬う仕事だ。人類という不完全な生き物を少しでも高みに上げたいといった欲求の表れだ。これを私らぁ「夢」と云ったり「希望」と呼んだりするわけですがね。これを止めた日にゃあ、考える葦ではなくなる。学者ってぇのはね。そういった人類の掛け替えのない声にならない言葉を、しっかと編んでくれる唐変木の集まりだ。決して粗末にしちゃあいけねぇ。

 

官僚組織の破壊も結構毛だらけだが、そんなもなぁ一朝一夕に成し遂げられるもんじゃあない。巧遅は拙速に如かず、なんて孫子の言葉を持て囃す風潮に踊らされちゃあいけねぇよ。為政者たるもの、どっしり腰を据えておやりなせぇ。知に矢を向ける者は、知によって射貫かれる。愚かな為政者の轍を踏んじゃあ、いけませんぜ、菅笠の旦那。

 

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