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中国海軍J-15艦上戦闘機 (殲撃15)

 

今月6日に沖縄本島南東の公海上空で発生した空母『遼寧』から発艦した中国海軍J-15艦上戦闘機 (殲撃15) による航空自衛隊所属のF-15J/DJ戦闘機に対する断続的なレーダー照射を巡る日中両国間の非難の応酬は一向に収まる気配を見せません。

マスメディアの報道が精度を欠いていることもあり、巷では様々な憶測が飛び交っていますが、それもそのはずで今回の事案は防衛上、最高機密に属するため両国ともに”真実”を公開することはなく、よって議論は藪の中とならざるを得ません。

まずは明らかとなっている事実関係を時系列に沿って確認しておきましょう。同日16時32分から35分にかけて沖大東島の西約270キロの公海上で第1回目の照射があり、続いて18時37分から19時8分にかけて第2回目の照射があった。これは両国が公式に認めています。

戦闘機が搭載しているレーダーには主に捜索用と火器管制 (fire-control radar, FCR) の2種類がありますが、捜索用レーダーは回転しながら周囲を哨戒する日常的なルーティン・ワークに用いられます。一方、追尾レーダーであるFCRは単一目標追尾 (STT) 方式が採られているため攻撃目標を探知・識別・特定し、実戦においてはいわゆる”ロックオン”を意味するケースもあります。

 

  中国人民解放軍 (中国軍) 海軍所属の055型ミサイル駆逐艦『南昌』 (101) は、海上自衛隊のあきづき型護衛艦『てるづき』 (DD-116) に対して英語で「我々の編成部隊は定められた通り、艦上攻撃機の飛行訓練を実施します」 (Our formation organizes shipboard aircraft flight training as planted over.) と事前通告し、『てるづき』も「了解しました」 (I copied your message.) と応じています。このやり取りも両国が認めている事実です。

ただ、小泉進次郎防衛大臣の反論ならぬ言い分は、「中国側は空母『遼寧』の艦載機の訓練海域・空域を事前に公表していたと発信していますが、遼寧の艦載機等の訓練海空域に関するノータム、航空 情報や航行警報が事前に通報されていたとは認識しておりません 」というものでした (9日の衆議院予算委員会にて)。

ここでひとつ基本的な疑問が生じます。そもそも軍事訓練の詳細を、予め他国に通告する必要はあるのだろうか? といった点です。同盟関係にある米軍と自衛隊が共同統合演習を実施する際には、当然のことながら綿密な情報交換が行われます。しかしながら、そうした同盟関係にはない国は事前に機密情報を開示するほどお人好しではなく、寧ろ「それを偵察・分析・警戒するのがあなた方の仕事でしょう」と考えるのが軍事の常識です。臆面もなく「知らせてくれなかったではないか」と不満を表明する”甘えの構造”からも、いかに自衛隊が”軍隊”の領域には達していないかが判ります。

懸案のレーダー照射について云えば、第1回目は約3分間と短時間であったため捜索用レーダー照射の可能性が極めて高い。問題は第2回目の約31分間ということになります。確かにこれは捜索用としてはいかにも長い。但し、マスメディアはあたかもこれが火器管制レーダーであったかのように報じていますが、そのような証拠はどこにもありません。事実、防衛省が10日に発表したプレスリリースでは「捜索レーダーの作動は飛行安全を確保するための通常の手順であるという中国の主張に関する反論」 (Refutation Regarding China's Claim that Activating Search Radars is Normal Procedure for Ensuring Flight Safety) といったように”捜索レーダー”を主語としており”FCR”と特定してはいません。

この中で防衛省は、「艦載レーダーとは異なり、戦闘機のレーダーは捜索だけでなく火器管制にも用いられます。よってレーダービームを検出した戦闘機のパイロットは、その本来の目的を明確に識別することは出来ません。そのため、視界不良時など安全上の観点から航空機搭載レーダーを周辺監視用として使用する場合においても、今回の事案のように断続的に点灯する運用は行われないと考えられる。戦闘機のレーダーは無差別に使用されるものではないことから、特に領空侵犯対処活動を行っている航空自衛隊の戦闘機に対してこのような断続照射を行うことは危険な行為であると判断します」 (Unlike shipborne radar, fighter aircraft radars serve the purpose not only for searching but also for fire-control. The fighter pilot detecting the radar beam cannot clearly discern its intended purpose. For this reason, even in case of an airborne radar being used for surrounding observations from a safety perspective, such as during poor visibility, it would not be employed in the manner seen in this incident, with intermittent illumination. Given that fighter aircraft radars are not employed indiscriminately, we determine that performing such intermittent illumination against JASDF fighter aircraft, particularly those conducting airspace intrusion countermeasures, constitutes a dangerous act.) としており、精読すれば明確に”ロックオン”されたことに抗議しているわけではなく、「紛らわしい行為は慎んで頂きたい」といったニュアンスとなっていることが判ります (照射があくまでも”断続的”と表現されている点がミソです)。こうした冷静な判断、正当なクレームは偶発的な軍事衝突を避けるためにも正しい。寧ろ問題なのは、不正確な情報を垂れ流し、世論を混乱に陥れているマスメディアにあると云えるでしょう。

ちなみに、万が一にも中国海軍機が火器管制レーダーを使用し例え”ロックオン”していたとしてもそれ自体、国際法に抵触するわけではありません。海上で他国海軍の艦艇や航空機と予期せず遭遇した際の軍事衝突を避けるために定められた国際的な行動規範として海上衝突回避規範 (CUES) があります。国際ルールとして広く認知はされていますが、同・条約に火器管制レーダーについての規定はなく、よって法的拘束力もありません。

航空自衛隊F-15J/DJ戦闘機

 

このようにレーダー照射は決して珍しいことではなく、国境を接する国軍同士では日常茶飯事と云っても良いでしょう。時折、敢えて領空を侵犯し相手の出方を窺う。防衛する側も同じシフトをひいていたのでは手の内を明かすこととなるため、常に編成、迎撃態勢を変化させて相手を混乱させます。こうした軍事的観点から云えば、今回の事案において最も精査されるべきは、約31分間にわたる”断続的な”レーダー照射の間、航空自衛隊機はどのような対応を取っていたか? に尽きるでしょう。この点については当然のことながら両国共に明らかにはしていません。

仮に航空自衛隊が何ら効果的な対処法を講じることなく、ただ単に照射を回避しクレームを出しただけであったとすれば、この”シュミレーション・ゲーム”に関しては中国軍に軍配が上がります。自衛隊は専守防衛を旨としていますが、今回の事案は図らずも中国軍のみならず米軍にも、”有事”における自衛隊の防衛能力が予想外に脆弱であることを知らしめた結果となりました。そもそも安全保障分野においてこれまでまったく実務経験がない小泉進次郎氏を防衛大臣に抜擢した時点で、勝敗は明らかであったとも云えるでしょう。

国際政治、特に軍事は極めて冷酷かつ非情です。今回の事案に対して感情的に反応し、マスメディアの”煽り”をまともに受けて短絡的に防衛力の増強を唱えるのではなく、改めて「国防」とは何か? を厳粛かつ精緻に考える契機とすべきでしょう。