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早いもので拙著『社歌』を文藝春秋さんから上梓させて頂いたのは14年も前のこと。当時、社歌について話すと大多数の皆さんの反応は、「社歌なんていつの時代の遺物よ?」だとか「愛社精神なんて軍国主義みたい!」といった何ともつれないものでした。こうなると逆に、私の反骨精神がむっくりと目を覚まします。入手し得る限りの社歌数百編を収集し、体系的に読み込んで行きました。

 

  今でこそ『NIKKEI 全国社歌コンテスト』(主催 日本経済新聞社) の影響もあり、ネットで「社歌」と検索すれば幾つもの動画を観たり聞いたりすることが出来ます。ところがその頃は、まだ社歌は社内でのみ使用される楽曲といった暗黙の了解があり、社外に公開している企業はほんの数えるほどしかありませんでした。一社、一社、社歌の有無を尋ねて廻り、あれば資料を送って頂くといった地道な作業が続きました。

  私は物書きなので、旋律もさることながら自然と歌詞にも目が向きます。これがなかなか面白い。社歌であるだけに、企業の理想や理念、歴史や業態などがしっかと盛り込まれている。しかも歌詞であるため文字数は限られているわけです。よって選び抜かれた言葉だけが、社歌の歌詞には詰まっている。

 

また、社歌の歌詞は創業者や経営者が自らしたためる、といった固定観念がありますが然に非ず。昭和初期から伝統的に、社歌の歌詞は社内公募によって選ばれるケースが大半を占めているため、意外にも血の通った言葉が多い(つまり一般的なイメージとは異なり社歌は、極めてリベラルな伝統を持っています)。さらには、歌は世につれ世は歌につれ、ではありませんが、社歌からはそれが制作された時代の日本経済・産業の姿がありありと浮かんでも来ます。社歌が、優れた企業文化であることの証左であり、社歌からこの国の近代産業史を繙くことが出来ます。

 

今年も『NIKKEI 全国社歌コンテスト』が開催されます(すでに応募は始まっています♪)。新型コロナウイルスの影響により今年に入り、就業・雇用形態が激変しています。来年にかけては歴史的な景気後退に見舞われ、産業構造自体が大変革期に突入する可能性があります。

企業はどのようにサバイバルするのか。社員はいかにして生き残るのか。社歌は、工場歌から生まれ、労働歌の影響を受けて発展した歴史があります。また社歌は、不況か好況かのいずれかのタイミングでブームを巻き起こした歴史もあります。こんな時代だからこそ社歌が、どのような役割を担い、活かされるのか。国内唯一の社歌エキスパートとして、また『NIKKEI 全国社歌コンテスト』の審査員として、興味は尽きないところです。

 

『NIKKEI 全国社歌コンテスト』公式サイトはこちら