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昨日発売の『日本経済新聞』朝刊に再び『NIKKEI 社歌コンテスト 2024』のカラー告知が掲載されました (5段)。応募締切は10月6日17:00。まだ十分間に合いますので、奮ってご応募下さい♪

 

私が「社歌」に興味を抱いたのは、20年以上も前のこと。2004年 (平成16年) に我が国で初めて世界87ヶ国の国歌を収録した『国のうた』 (文藝春秋 のち角川ソフィア文庫) を上梓し、共同体をまとめる「歌」に魅せられたのがそのきっかけでした。なぜ故に人々は、太古から「歌」に感情移入し、共に「歌う」ことで固有のユニットを形成して来たのか。「国歌」に続いて着目したのが、日本独自の企業文化である「社歌」でした。

 

組織に属したことがなく、米国に留学していた私にとって「社歌」は当初、とても奇異な”慣習”として映りました。古色蒼然とした終身雇用制や愛社精神の発露として、いわゆる”ガラパゴス化”の典型ではないかと。

しかしながら、歌詞を繙いて行くと、これが大層面白い。国歌と同じく、限られた字数内に組織体の哲学や理念、理想、歴史が簡潔かつ明瞭に盛り込まれている。さらには「社歌」の歴史をつぶさに辿れば、我が国の近代産業史も鮮やかに浮かび上がって来るではありませんか。

 

その後、取材させて頂いた企業は200社以上を数えました。「社歌はお持ちですか?」 公式ホームページに「社歌」の有る無しなど記載されているはずもなく1社々、電話で問い合わせるしかありません。当時は、「社歌」を取材するような変わり者はもちろんのこと、研究者も皆無であったため、広報担当者は、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべるばかりでした。「少し、調べてみます…」。

ところが、暫くして返答を寄せて来た彼らは一様に「ありました、ありました! なかなかいい曲です」と、声を弾ませていました。聞けば、社歌制定の経緯がわからなかったため、とうの昔に定年退職された元・役員に話を伺ったり、創業当時の文献資料にあたったと云います。その過程で、自らが属する組織の歴史を初めて知ることが出来た。とてもいい経験だったと感謝されたことさえありました。

 

そのものズバリのタイトルが注目を集めました。日本を代表する41社の企業史と「社歌」にまつわるエピソードが満載されています。

 

2年間に及んだ取材を経て、06年(平成18年) に『社歌』 (文藝春秋) を上梓。こちらも本邦初、前代未聞の”ビジネス関連本”として話題になりました。刊行時、私はこれから「第4次社歌ブーム」が到来すると大見得を切りました。もちろん、それだけの素地があったからに他なりません。予想通り、間もなくしてパナソニックホールディングスが社歌を改訂し (2008年)、キッコーマンも作詞に秋元康氏を起用しグループソングを発表するなど (2010年)、”社歌の効用”に気づいた大手企業が次々と社歌制作に乗り出しました。

 

昨今、「社歌」に関する見識や知識、取材経験に乏しいマスメディアや学者たちは未だに「第4次社歌ブーム」といった表現を用いています。しかしながら「社歌」は、すでに第5次ブームに突入しています (そもそもこの「社歌ブーム」といった区分自体、私が20年前に定義したものです)。

その背景に、『NIKKEI 社歌コンテスト』があったことは紛れもない事実です。応募方法を「動画」と規定したことが大きな要因として挙げられます。動画共有サービスYouTubeに社歌動画がアップされることで、例え小さな村の零細企業であれ、瞬く間に”全国区”に躍り出ることが出来る。高額な広告宣伝費を投入することなく、企業イメージを浸透させることが可能になりました。これまで社内向けツールに留まっていた「社歌」が、”外向き”のコンテンツへと大きく舵を切ったのが第5次ブームの特徴です。

 

私も審査員に名を連ねる日本経済新聞社主催の『NIKKEI 社歌コンテスト』は、今年で5年目を迎えます。毎年、着実に応募企業が増え、一般投票数は100万を超えるイベントにまで成長しました。今後「社歌」は、東南アジアを中心に民族や言語、宗教が異なる社員を取りまとめる優れたコミュニケーション・ツールとして海外にも広まって行くことでしょう。社歌の国際化、「第6次社歌ブーム」も、もうすぐそこにまで来ています。