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   今月21日、米連邦議会議事堂前で第46代ジョー・バイデン米大統領の就任式が催され、人気アーティスト レディ・ガガが米国国歌『星条旗』(The Stars and Stripes)を独唱しました(4年前のドナルド・トランプ前大統領の就任式では、オーディション番組『America’s Got Talent』で名を馳せた当時弱冠16歳のジャッキー・エヴァンコがこの大役を担っています)。

世界の国歌”に関しては国内唯一のエキスパートであることから私もコメントも求められましたが、彼女ならではのアレンジが施された堂々たる歌いっぷりだったように思います(ただ、個人的には5年前に開催された第50回スーパーボウルにおける独唱の方が遙かに素晴らしいパフォーマンスとして心に残っています)。

 

『星条旗』は、世界で最も知られている国歌と云って良いでしょう。米メリーランド州で弁護士を営んでいたフランシスコ・スコット・キイによって1814年に作られた歌詞には、

 

〽 危険きわまりない戦闘の最中にも

我らが死守する砦の上に 星条旗は

雄々しくひるがえっていただろうか?

 

  といったように戦闘の様子が生々しく綴られていますが、軍事力を誇示する歌では決してなく、英国から独立を勝ち取るために命を賭して闘った兵士たちを讃えた内容となっています。

戦争捕虜の交換交渉のためにボルチモア沖に停泊していた英国艦隊を訪れたキイは 9月13日午前6時から、英艦隊がマックヘンリー要塞に向けて総攻撃を行う光景を目の当たりにします。圧倒的な火力で攻め続けた英軍でしたが、朝焼けの中に星条旗が依然としてはためいているのを認め、彼は友軍が要塞を死守したことを知ります(詳細は拙著『国のうた』をご一読下さい)。

 

ナショナリズム(Nationalism)ではなく、あくまでも愛国心(Patriotism)の発露である『星条旗』は学校や職場でも、右手を左胸にあて日常的に歌われています。公式行事や国際的イベントともなると、当然のことながら有名歌手がその美声を披露することとなります。

数多くの『星条旗』を耳にして来た私が今以てベストワンに挙げるのは、不世出の歌姫ウイットニー・ヒューストンが第25回スーパーボウル(1991年)で披露した独唱です。

 

1月27日にフロリダ州タンパで開催された全米最大のスポーツ・イベントであるナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の王者決定戦(ニューヨーク・ジャイアンツ vs. バッファロー・ヒルズ)は、ちょうどその10日前に米国率いる多国籍軍がイラク共和国を空爆した「砂漠の嵐作戦」が決行された直後であったこともあり、厳戒態勢下で行われました。

同州マクディル空軍基地・第56戦術訓練航空団 (56TFTW) に所属する4機の F-16 ファイティング・ファルコンがスタジアム上空をフライオーバーする中、7万4000人近い観客が星条旗の小旗を打ち振る緊迫した雰囲気にも関わらずヒューストンは、圧倒的な歌唱力と表現力で『星条旗』を見事に歌い上げ、感動の嵐を巻き起こしました。彼女のこのパフォーマンスを超える名唱は、おそらく二度と現れないでしょう。ウィットニー・ヒューストンよ永遠に。

 

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