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被爆者の皆様の悲願であった核兵器禁止条約 (TPNW: The Treaty of the Prohibition of Nuclear Weapons) が本日、遂に発効されました。この歴史的快挙によって締約国は、条約に基づく義務を積極的に履行し、禁止条項を遵守しなければなりません。被爆者の皆様が長きにわたり訴え続けて来られた反核の願いが結実し、戦時において初めて広島、長崎に投下された核兵器は、漸く国際条約によって法的に禁止されることとなりました。

 

この条約について、いわゆる”有識者”の中にも「絵に描いた餅に過ぎず、何の効果もない」と、したり顔で断じる者が数多くいます。確かに、この条約発効は初めの一歩に過ぎません。しかしながら私は (多くの反核論者が主張するのとはまた異なった観点から)、この条約は間違いなく効力を発揮する、しかもかなり早い時期に影響が現れるだろう、と踏んでいます。

現段階で、核兵器禁止条約に署名した国は86、批准した国は52にも上っています。この数は、これからも着実に増え続け、数年後には国連加盟国の過半数を占めることとなるでしょう。批准国は「核を持たない国々」であるとは云え、国際的に無視することの出来ない一大勢力となって行きます。こうした世界的潮流に押される形で、やがて核保有国の中にも批准に踏み切る国 (例えばフランス共和国) が出ることも予想されます。幾つかの理由から、核兵器の廃絶は最早、押し留めることの出来ない人類の”選択”となっているのです。

 

TPNWが機能すると私が考える第一の理由は、軍事的要因です。皆さんは「戦争」と云えば、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 爆撃機の大編隊が投下する無数のナパーム弾? カラシニコフAK-47が乱射される市街戦? それとも広島・長崎に落とされた原子爆弾から生じたキノコ雲でしょうか? しかしながら大規模な近未来戦において、こうした「見慣れた戦争の光景」は姿を消すこととなります。云うまでもなく核兵器は、冷戦時代の悪しき置き土産であり最早、過去の遺物となりつつあります。

 

老朽化した核兵器は、突発的事故を引き起こす可能性が日増しに高まっており、放射線被害の人体のみならず環境への悪影響が明るみになるにつれ、1990年代に入ると核兵器に依存しない国際安全保障を求める声が高まりました。この時期になって、まるで計ったかのように環境問題が世間を騒がすようになったのも決して偶然の一致ではありません。

TPNWも冷戦終結後になってモデル核兵器禁止条約 (Model NWC) として起草されていますが(1996年)、核兵器が”時代遅れ”と認識され始めた時期と重なります。「核の傘」といった表現を、我が国の国会で初めて用いたのは共産党の岩間正男参議院議員でしたが(1965年12月の参院日韓条約等特別委員会)、半世紀以上の歳月を経て、この文言もまた”死語”となりつつあります。

 

米国、ロシアに中国を加えた超大国の軍拡競争は、今や大陸間弾道弾 (ICBM) の開発・実戦配備といった大気圏内の戦いから、宇宙空間へと主戦場が移されています。米国は2019年に宇宙軍を”第6の軍”として創設し、宇宙空間における安全保障の確保に踏み切りました。現時点で宇宙軍が保有する攻撃的兵器は、衛星電波妨害装置のみですが、やがて極超音速(ハイパーソニック)兵器や対衛星攻撃(キラー)兵器などが軍事衛星に装備されることとなるでしょう。

 

人類の進歩、科学の発展に対する欲望が果てることはありません。しかしながら核兵器は、すでに開発され尽くした感があります。そのためコンパクトな劣化ウラン弾を、より「クリーン」なタングステン弾に差し替える、といった核兵器開発といった側面から云えば”後ろ向き”な開発しか手掛けられてはいません。つまり「核」には最早、新たなアイデアを生む余地がない。こうなると科学というものは一気に停滞します。軍事兵器も然り、次なる進化を求めて時代は動き始める。想像だにしなかったパラダイムシフトが起こります。核兵器開発は今、こうした大きな過渡期にあると云っても過言ではありません。核兵器保有国は、いかに”店仕舞い”するかを模索し始めています。TPNWは、彼らの”名誉ある撤退”のお膳立てと見ることも出来るでしょう。

 

核兵器廃絶を長年訴えて来られたサーロー節子さんとは一昨年11月、武田健氏のお宅で会食させて頂く機会に恵まれました(谷本清牧師の長女 近藤紘子さんもご一緒でした)。