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   デジタル時代の影響でしょうか。世界的に「1」か「0」か、「白」か「黒」か。拙速に結論を求める傾向が顕著となっているように思われます。核兵器禁止条約 (TPNW) についても同じくで、これまでまったく関心を示さなかった”知識人”やメディアまでもが、あたかも錦の御旗を手にしたかの如く「日本はなぜ批准しないのか!」と、盛んに糾弾する有り様は滑稽でなりません。

 

   我が国は同・条約を批准すべきであり、遅かれ早かれ批准することとなります。これは前・後・続編で示した理由から間違いありません。しかしながら現状において、日本が速やかに批准すべきかどうかについては議論の余地があります。核抑止論に配慮するなどといった凡百の理屈ではありません。その前に、我が国に課せられた”仕事”があるのではないかと。

 

   日本は、「核保有国」でも「非核保有国」でもありません。戦時における唯一の「被爆国」です。先にも綴った通り、ニュートラルな立場を貫ける被爆国です。「核保有国」と「非核保有国」といった二極対立構造に安易に取り込まれることなく、「第三の道」を選択すべきと考えます。

 

   かつて我が国は、第4次中東戦争の勃発を契機にアラブ石油輸出国機構 (OAPEC) 加盟10ヶ国が、原油公示価格を実質1.4倍に引き上げ、石油を「政治的戦略商品」として用いた際、戦後一貫して維持し続けて来た米国を中心とする多国籍石油資本(メジャーズ)に対する盲目的な追従に区切りをつけました。メジャーズとは一定の距離を置き、アラブ支持を表明すると共に三木武夫副総理を団長とする使節団をサウジアラビア、エジプト、アルジェリアへ派遣します。つまり、アラブ各国とメジャーズとの間を渡り歩くといった綱渡りを演じ、第一次石油危機を乗り切り、国益を守りました。

 

   核兵器廃絶においても我が国は、あくまでも中立の立場を堅持しつつ、これを寧ろ前面に打ち出すことでしたたかな役割を演じることが出来る。それは核兵器を保有している、核兵器開発を進めていると見做されている国々の懐に自ら飛び込み、彼らが核を放棄するよう真摯に説得することです。現実問題として、これらの国々が存在する限り、核保有国がTPNWを批准することはあり得ず、同・条約が効力を発揮することもありません。逆に、被爆国・日本の独自の外交努力によりこれらの国々がTPNWを批准すれば、核保有国としてもTPNWを排除する正当性は失われ、批准せざるを得なくなります。

 

   国際政治は、「白」か「黒」かで割り切れるほど単純なものではありません。日本は、いち早くTPNWのオブザーバーとして名乗りを挙げ、核兵器廃絶といった国是を内外に表明すべきです。その上で、「核保有国」と「非核保有国」のいずれにも肩入れすることなく、付和雷同することなく自らの個性を最大限に活かし、「第三の道」を選択する。例え、八方美人と叩かれようが核兵器廃絶の現実的なロードマップに寄与すべきでしょう。”核の傘”に隠れることはもちろんのこと、非核化の波に埋没することも、我が国にとって得策とは云えません。

 

激動の近代において日本は、幾度となく世界史に名を刻むチャンスに遭遇しながらも、これらを意識的または無意識に見逃して来ました。核兵器を保有しないどころか非核三原則を掲げ、日本国憲法において「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と高らかに謳ったこの国の矜持を、是非ともこの機会に世界に見せつけてもらいたい。「被爆国」としての責務を全うした後、堂々とTPNWを批准したところで、決して遅くはありません。核兵器廃絶が現実味を帯びて来た今、日本政府そして日本人の覚悟が試されています。