20210224.jpg
 

 

かつて「30歳以上の奴らを信じるな」(Don’t Trust Anyone Over 30)といったスローガンが流行った時代がありましたが私は、若者たちと話す際、「40歳から80歳の日本人は信じるな」(Don’t Trust Over 40 and Under 80)と説いています。戦争の現実を知らず、バブル時代を知っている世代です。そう。私はそのど真ん中に位置しているため、私のことも信じてはいけません。

 

   第64代総理大臣を務めた田中角栄氏は現職当時、初当選議員らを前にして「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが戦争を知らない世代が政治の中枢になった時はとても危ない」と語っています。けだし名言です。

戦後生まれで初めて総理大臣となったのは安倍晋三氏(第90、96〜98代)。その前の小泉純一郎総理大臣(第87〜89代)も昭和17年生まれなので、戦争を知らないに等しい世代です (興味深いことにその前は橋本龍太郎氏から森喜朗氏まで昭和12年生まれ、終戦時には8歳のお坊ちゃんたちが3代続いています)。つまり、(昭和11年生まれの福田赳夫氏、同15年の麻生太郎氏がそれぞれ1年間、首相の座には就きましたが) 「2000年」前後を境に我が国の政界は、角栄氏が喝破した「危ない時代」に突入したわけです。

 

   加えて、この「40歳から80歳の日本人」は、狂乱のバブル経済成長期に立ち会っています。私事で云えば、当時はほぼ毎晩、美食三昧。仕切り直しで高級クラブへ行き、その後は朝までバーで飲み倒す、といった酒とバラの日々をごく当たり前のように送っていました。街では、身体のラインがビチッとはみ出たボディコンなる衣装に身を包んだワンレン女子たちが闊歩し、ダブルの高級イタリアン・スーツを着こなした不動産屋の金庫には現ナマが堆く積まれていました。

 

この世代は、世界史的にも極めて稀な好景気の洗礼を受けています。それ自体、決して悪いことではありませんが、未だに”成功体験”から抜け出せずにいる。「今の経済状況は芳しくないが、必ず日本は甦る。それだけの力を日本人は持っている」といった何の根拠もない幻想に囚われ勝ちです。これがいけない。畢竟、現状分析が甘くなり、希望的観測で物事を判断してしまう傾向があります(夢と幻想とは異なります)。

すでに我が国は、「何ともならない」状態に陥っているにも関わらず、「何とかなるさ」と鷹揚に構え、対応が後手後手に回ることで、状況をさらに悪くしている。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、前例のない非常事態であるとは云え、政府のみならず官僚やマスメディアの危機管理能力の欠如により、我々の生活は苦境に立たされています。何を隠そう菅義偉総理大臣は、昭和23年生まれ、団塊の世代です。

特にこの世代、シュプレヒコールを挙げて”破壊”することはお手の物ですが、目標を設定し地道に”建設”することは苦手と来ている。攻撃目標は彼らの云うところの”体制”だけではありません。日本国憲法さえもが危険に晒されています。

 

一方、30代以下の若者たちは、まったく異なる日本観を抱いています。生まれてこの方、”豪奢”とは無縁の生活を営み、学校では愚にもつかない観念論を滔々と述べ立てる教師に失望し、何とか大学は出てみたものの就職もままならない。ベンチャー・ビジネスとやらに活路を見出そうとした矢先にITバブルは崩壊。リーマン・ショックを経て、新型コロナウイルスに追い打ちをかけられている。

今の日本そして日本人の実態を知る彼らにとって、「何とかなるさ」なる妄言は、無知蒙昧の極みと映ることでしょう。何事も、足元を見据え、ヴィジョンを持って行動しなければ、足元を掬われます。もう二度と、バブル経済はやって来ません。寧ろ、より深刻な世界恐慌に見舞われる可能性の方が遙かに高い。この国の現在位置を冷静に見極め、身の丈に合った政策、ライフスタイルを構築することは、残念ながら「40歳から80歳の日本人」には不可能でしょう。

バブル経済の後遺症から抜け出せず、没落の一途を辿ったネーデルラント連邦共和国(現・オランダ王国)や大英帝国と、同じ道を歩むのでしょうか。この国の行く末は、30代以下の若者たちの双肩にかかっています。そこのおじさん、おばさん、ご同輩。出しゃばるのも大概にしませんか。