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幼少期から、いわゆる研究者と称される”人種”に囲まれて育ったため彼らの生態、その優秀さとダメさ加減は、ある程度、習熟しているつもりです。そんな私が残念で仕方がないは昨今、日本国籍を有する研究者の発想が極めて貧困であることです。今世紀に入り日本人科学者は物理学、化学、生理学、そして医学分野でノーベル賞を軒並み受賞しました。しかしながらこれらの研究は、いずれも”昭和期”の基礎研究に基づいたものであり、今後は受賞者が激減する暗黒時代がやって来るものと思われます。

新型コロナウイルスのワクチンおよび特効薬についても然りで、社会への貢献欲と旺盛な勤勉欲を有していたかつてのサイエンティストであれば、いの一番に日本製ワクチンを開発していたことでしょう。少なくとも外国製の薬剤に頼らざるを得ない我が国の現状を見れば、地団駄踏んで悔しがったに違いありません。とにもかくにも今どきの研究者はケツが重い、好奇心が希薄、遊び心が乏しいの三重苦。某一流大学の研究者から、面と向かって「私は、フィールドワークはしない主義です」とドヤ顔で云われ、面食らった覚えがあります。”現場”を知らずして世のため、人のためになる研究など果たして出来るのでしょうか?

 

  専門分野を跨いでフラットな議論を重ね、新たな発想を編み出すことも、縦社会に安住して来た日本人研究者の苦手とするところです。オーストラリア連邦のシドニーにローウィー・インスティテュート(Lowy Institute)という独立系シンクタンクがあります。国際政治や地政学、経済問題を独自の視点で分析する個人的に注目し続けている研究施設のひとつなのですが、ここが非常に興味深い研究発表を行っています。「新型コロナウイルスが各国の民主主義にどのような影響を与えているか?」といった学際的リサーチです。

 

  ご周知の通り同国は、徹底した検査 (基本無料。結果、陽性となり隔離されて無収入となっても国から1,500豪ドル、約12万円の一時金が支給されるため、国民は躊躇うことなく検査を受けています)と追跡調査 (生活排水を監視し、大便に潜むウィルスの検出も行っています)によって感染抑制に成果を挙げています。実際、同国の感染者総数は昨日段階で29,897名、死亡者は僅か910名。そのため国民の   95%が政府の対策を評価しています(内、65%が「高評価」)。

 

  ローウィー・インスティテュートは、こうした政府による新型コロナウイルス対策によって生じる”弊害”を各国比較しています。つまり感染拡大を防ぐためと称してどれだけ個人の自由や人権、生活権が侵害されているかといった指標です。目の付けどころが面白い。2019年と比較して最も低い評価を得たのはタイ王国で -0.28ポイント。次がラトビア共和国の -0.25でボリビア多民族国が -0.24で続きます。逆に高評価だったのが云わずと知れた台湾で +1.12。チリ共和国 +0.20、パナマも +0.13ポイントとなっています。

オーストラリア連邦も、連邦首相と各州首相の合議体である「国家内閣」(National Cabinet)を立ち上げ、5メートルの物理的距離と衛生管理を徹底したため、逆に民主主義度数は -0.13に留まっています(我が国を含む人口の大きい欧米先進国の指数は明らかとなっていません)。

 

こうした目から鱗の発想というものが、日本人から失われて久しい。「発見・発明」というものは、じっと座って文献とにらめっこしていただけでは生まれません。ジャーナリストと同じく、どれだけ足を使って生きたデータを集めるか。それは社会科学のみならず自然科学においても云えることです。

本ブログでも何度が取り上げた寄生虫病の特効薬「イベルメクチン」を発見した大村智・北里大学特別栄誉教授は(2015年にノーベル生理学・医学賞受賞)、山々を散々渡り歩いた末に、静岡県伊東市川奈の土壌から放線菌という微生物を発見し、この微生物が生産する抗寄生虫薬「エバーメクチン」とその誘導体である「イベルメクチン」を開発します。2019年には年間 4億人が投与を受け、リンパ系フィラリア症から命を救われている「イベルメクチン」を生んだ大村教授も、科学者は「人のためにあれ」と仰っています。貧困な発想からは、発明も発見も生まれません。横並びを嫌い、誰も気づかなかった着眼点を持った優れた”バカ”は、もうこの国からは生まれないのでしょうか。