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この御仁の空気の読めなさは、一体全体どこから来ているのでしょう。衆議院議員を三代にわたり務め上げた一族の跡継ぎ息子であるにも関わらず、良く云えば帝王学、悪く云えば政局を読み解く力がまったく備わっていない。長門国を地盤とする「売り家と唐様で書く三代目」ともまた趣きが異なる。まるで狙ったかのようにツボを外して来るその言動は最早、芸の域に達しているようにも思われます。言わずもがな岸田文雄内閣総理大臣殿、そのひとです。

 

先月30日、岸田総理は第二百十三回国会の衆議院本会議において施政方針演説を行い、その中で日本国憲法について、あろうことか「あえて自民党総裁として申し上げれば、自分の総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはなく、議論を前進させるべく、最大限努力したいと考えています。今年は、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります」と宣しました。憲法改正を党是とする自由民主党にあっても、ここまで踏み込んだ発言をした総裁は未だかつていなかったため、並み居る同党議員らもさぞかし吃驚仰天したことでしょう。

同党の派閥による政治資金パーティーを巡る問題を受けて岸田総理は、吉田茂内閣総理大臣が結成した旧・自由党の流れを汲む保守本流の宏池会の解散を自ら決定。傍流でありながらも最大派閥であった清和政策研究会 (安倍派も解散に追い込まれました。元より岸田内閣の支持率は26%と極めて低く (先月15日付NHK世論調査あくまでも表向きとは云え、派閥が解体されたことで、党内の求心力も急速に低下して行くものと思われます。

 

こうした四面楚歌の状況下で党員の心をひとつにまとめるべく、起死回生の切り札として憲法改正を引っ張り出して来られたのでしょう。しかしながら、前述のNHK世論調査でも「岸田内閣が今年取り組むべき課題」のトップには「賃上げ・経済対策」(31が上げられ、次いで「社会保障」(17)、「災害対策」(16と続き、「憲法改正」は僅か4%に過ぎません。

こうした世論は戦後一貫して変わることなく、日本国民の関心事は常に「経済」、しかも「内需」に集中しています。自民党はこれまで幾度となく憲法改正を画策して来ましたが毎回、悉くこの経済政策優先の壁に阻まれ、先送りにされて来た歴史があります。

憲法改正には、2021年5月17日のこのブログ『日本国系法解体新書』(https://japanews.co.jp/concrete5/index.php/Masazumi-Yugari-Official-Blog/2021/2021-5/日本国憲法解体新書) でも綴りましたが、想像以上に高いハードルが設けられています。日本国憲法第95条にある通り、まずは各議院の総議員の三分の二以上の賛成で可決した場合に限り、国会は憲法改正の発議を行うことが出来ます。まず以てレイムダック状態に陥っている現政権では、ここまで辿り着くことさえ至難の業でしょう。

引き続き、発議が成された日から起算して60日以後180日以内に国民投票が行われ、投票総数の二分の一を超える賛成票がなければ国民の承認は得られず、廃案となります。

 

国民投票に敗れた場合、発議を主導した政権与党 自民党はどうなるか? 下野するどころか解党を余儀なくされるでしょう。憲法改正は、まさに党の存亡を賭けた大勝負となるため、これまでタカ派と称された中曽根康弘や安倍晋三といった歴代総裁でさえ、土壇場になって二の足を踏んで来ました。

岸田総理の任期は長く見積もってもあと8ヶ月足らず。憲法改正が重要課題と考える国民が僅か「4%」しかいない中、やれるものならやってご覧なさいと申し上げる他ありません。結果は明らか。派閥のみならず、戦後日本を牽引して来た自由民主党を解党に追い込んだ最期の総裁として、その名を日本史に刻むこととなるでしょう。

風見鶏ならぬ空気が読めない宰相の、面目躍如といったところですが、いやはやこんな形で党が消滅するとは…。吉田茂、岸信介、佐藤榮作も、安倍晋三でさえ草葉の陰で咽び泣くことでしょう。尤も、身から出た錆と云えばそれまでですが。

 

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