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   ベラルーシ共和国と云えば皆さんは、どのようなイメージをお持ちでしょうか。一定の年齢以上の読者であれば「白ロシア」として記憶されているかも知れません。この「白」は17世紀、ロシア帝国に占領されていた当時のロシア語表記である「ベロルシア」(Белоруссия) の「ベロ = 白」に由来しています(「白系ロシア」とはまた意味が異なります)。ご周知の通り、1919年にはソビエト社会主義共和国連邦(旧・ソ連)の前身として、白ロシア・ソビエト社会主義共和国が成立しています。

 

ポーランド共和国やウクライナ、そしてロシア連邦に囲まれたベラルーシ共和国は、人口 940万人余りの小国に過ぎませんが昨年来、欧州連合(EU)や米国はその動向に神経を尖らせています。同国のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、四半世紀にわたりその地位に居座り続け”欧州最後の独裁者”とも呼ばれて来ました。昨年8月9日に行われた大統領選挙で 6回目の当選を果たしたものの(得票率 80.23%)、これに対して国民が猛反発し、EUも開票結果に改竄があったと疑義を呈したため、一気に民主化運動に火が付きました。

   同国は、基本的に親ロシアとして知られていますが、ルカシェンコ大統領の政治基盤であった旧・ソ連型の自動車製造工場や石油精製を担う国営企業、マスメディアが一斉にストライキに突入し、全国規模の抗議活動へと発展。政権側は治安部隊を投入し、数万人にも膨れ上がったデモ隊の制圧を図り、死傷者も出る事態に陥っています。

 

  さらには1年近くにもわたる政情不安に終止符を打つべくルカシェンコ大統領は先月、何と抗議デモ参加者に対して治安部隊が発砲する許可を与えるといった非人道的法案に署名しました。人権は厳しく制限され、治安当局によって「危険人物」にリストアップされた教師やジャーナリストは即刻解雇され、州によって資産状況を監視されるなど、まさに一触即発の状態となっています。

   公正な選挙のやり直しを公約に掲げて国民の圧倒的な支持を集めているスベトラーナ・チハノフスカヤ氏ら民主化を求める政治家は、すでに当局によって拘束されているか国外に逃亡しているため、米国やEUは同国に対する経済制裁を強めてはいますが、ルカシェンコ大統領は強硬な姿勢を崩そうとはしていません。このままでは流血を伴う大惨事に発展する可能性があります。

 

   ミャンマー連邦共和国を始めエジプト・アラブ共和国やベネズエラ・ボリバル共和国など、世界では今、独裁政権の台頭が顕著となりつつあります。新型コロナウイルスの感染拡大によって引き起こされた経済危機や社会的混乱、そして何よりも国民のフラストレーションが、強いリーダーシップを求める要因ともなっています。一方では冷戦が終結し、グローバリズムも過去の遺物となり、各国は自らの判断で国の方針を定め、可及的速やかに国政を司る必要性に迫られています。新たな哲学が見当たらない中、多くの国々では”悪手”と指弾されようが「分断」を選択し、生き残りを図るしか手立てはありません。混沌の時代。私は、新たなパラダイムシフトを迎え、日本国憲法が提起した普遍的平和思想が今後、世界から見直され、輝きを増す余地が徐々に拡がりつつあると感じています。

 

デモ隊が掲げているのはベラルーシ人民共和国時代の国旗(1918〜19年)。第一次世界大戦中、ドイツ軍によって占領されていた当時、ブレスト=リトフスク条約によって独立が宣言され、赤軍が首都ミンスクに侵攻するまでの短期間存続した”国家”です。同国が、民族自決を謳歌した束の間の”春”であっただけに、今でも理想的な国家形態としてベラルーシ国民の心を摑んでいます。

 

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