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   この子が、我が家にやって来たのはもう15年以上も前のことになります。長らくリビングルームに鎮座していたため、私の日常をずっと見守り続けて来た”家族”の一員。「フィカス・ベンガレンシス」といった哲学者を想わせる厳めしい名前が冠されたクワ科の観葉植物です。

 

   ちょうど3年前に移転した際、インド生まれのこの子は「日光が好き♪」と教えられたため、ベランダに出してあげたところ、見る見るうちに”野性”を取り戻し、次から次へと大きな葉をつけてくれました。ところが一昨年暮れ、うっかり屋外に出しっ放しにしていたため、朝霜を浴びてしまい、瞬く間にすべての葉が枯れ落ちてしまいました。

 

  「ごめんなさい」。ハゲちょびんになってしまった不憫な子に語りかけながら2月、3月…。4月になっても何の変化もないどころか、目に見えて枯れ枝が増えて来ました。いよいよ「もうお別れするしかないか…」と思った矢先、5月末のことです。地表すれすれの幹から、小さな芽が顔を出しました。「もしや?」と思い毎日、水をやりながら見詰めていると、やがて、あちらからもこちらからも新芽が、枯れたと思われた表皮をメリメリと破って出て来るではありませんか! 夏を迎える頃には、今までで最高の57枚もの葉をつけるようになりました♪

 

  「決して諦めてはいけない。諦めた途端に可能は不可能となる」。この子から私は、大切なことを学んだように思います。作家という仕事は、なかなかどうして孤独な作業の連続です。取材も、成功するよりはうまく行かないことの方が遙かに多い。執筆も、一日に一行も書けないことなど珍しくはありません。やもすれば、すべてを投げ出したくもなる。でも、「降りた」瞬間に、すべての歩みは止まります。じっと我慢をしていれば、この子のように必ずや起死回生のチャンスは訪れる。

 

   今日もこの子は黙して語らず。唯々、ここに”居る”。何を主張するでもなく、不満を唱えるでもなく、ひたすら穏やかに、たおやかに呼吸している。この木、なんの木? そう。「気」になる木です。

 

窓際で、のほほんと暮らすフィカス・ベンガレンシス。撮影後、それでもやはり半分以上が落葉してしまいました…。暖かくなったら、またベランダへ。春よ来い、早く来い♪