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私たちは、商品化された音楽を”購買”し、”消費”することで卓越したミュージシャンが奏でる極上の音楽を楽しむことが出来ます。アーティストたちは発売予定日を念頭に楽曲を産み、アレンジを施し、幾度となくレコーディングを重ねた上でベスト・テイクをセレクトし、完パケ”商品”として作品を世に送り出します。

 

ただ、ミュージシャンにしてみれば、自由気儘に大好きな楽曲を、気心の知れた仲間たちとプレイするジャム・セッションの方が遙かに楽しい。動画配信サービスを通じて、レコード制作会社や問屋を通さず”直販”で収益が得られるビジネスモデルが生まれただけではなく、新型コロナウイルスの影響で、演奏する側のみならず聴く側もステイ・ホームといったライフスタイルが定着したことから、近年はこうしたゆる〜いプレイを堪能出来る機会が増えました。そんなわけで今日は、朝も早よから元気が出る、飛びっ切りの演奏をご紹介します。

 

一部のフュージョンもしくはクロスオーバー・ファンの方々にとっては堪えられないジャム・セッションでしょう♪ 天才クインシー・ジョーンズがブレイクするきっかけとなった名作『ボディ・ヒート』(1974年)に収録されている”If I Ever Lose This Heaven”を、キューバ人とメキシコ人の血を引くスタジオ・シンガーで人気ボイス・トレーナーでもあるVi (Ivana Cespedes Jordan)さんが気持ち良〜く歌ってくれています。

でもってサポート・ミュージシャンは、何とあのアース・ウィンド & ファイヤーのリズム隊 (Bass: ヴァーダイン・ホワイト Drums: ジョン・パリス)。圧巻のサックス・ソロを聴かせてくれるのはミック・ジャガーやスティーヴィー・ワンダーといった錚々たるアーティストのツアーやレコーディングにも加わっているスコット・マヨさん。特に、彼がアレンジしたサピの部分のホーン・セクションとベース・ラインは見事のひと言!  この曲は、アベレージ・ホワイト・バンドによるカバーが有名ですが、個人的にはキレッキレッでタイトなこの演奏がお気に入りです♪

 

ここでちょこっと英語のお勉強です。この”If I Ever Lose This Heaven”のサビの部分を直訳するとこうなります。

 

〽 If I ever, ever, ever lose this heaven     もしも私が天国を失ったら
I'll never be the same              私は決して同じではいられない 

 

 これでは色気も何もない。ならばというわけで意訳すれば、

 

〽 If I ever, ever, ever lose this heaven     もしもあなたとの生活を失ってしまったら
I'll never be the same              私は生きては行けない

 

 こちらの方が訳としてはしっくり来るでしょう。しかしながら” lose this heaven”が持つ独特のニュアンスがすっぽり抜け落ちてしまいます。些細なことのようですが各国言語には、どう転んだところで訳し切れない”味わい”を持ったフレーズが多々あることを「知る」ことが、異文化理解の第一歩となります。

 

収録されたのは米カリフォルニア州のスコット・フランクフルト・スタジオ。まるで友人宅のリビングルームを思わせるリラックスした雰囲気を持つスタジオですが、ここからはホイットニー・ヒューストンの『One Wish』やヨー・ヨー・マの『Soul of the Tango』といった数々の名作アルバルが生まれました。