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此の度、重版(4刷)がかかった拙著『世界の名言大事典〜英語でふれる77人のことば』(くもん出版)は、世界の偉人たちが残した名言の数々を日本語と英語で記し、彼らの個性的なエピソードや歴史的、社会的背景を紹介した就学児童向け(小学校高学年以上)の大型本です。

 

『出版指標年報』によると、書籍の出版点数は年間71,903 (2019年)。そのうち、重版がかかる作品は1〜2割程度だと云われています。さらに版を重ねる作品となるとごく僅かであり、作品のクオリティ云々だけではなく、営業サイドのサポートによるところも大きいため、版元を始め関係各位には感謝の言葉しかありません。本作は、比較的高価なこともあり、主に全国の学校・公立図書館で読まれていますが、お子様やお孫様のお誕生日・入学祝いとしてもご好評を頂いております。

 

この作品を手掛けた伏線は、2012年に上梓した拙著『The Words〜世界123賢人が英語で贈るメッセージ』(朝日新聞出版)にありました。この作品を執筆するにあたり膨大な数の国内外の名言集を読み込む過程で、あることに気づきました。特に国内のいわゆる名言集のほぼ9割以上が出典を明らかにしていない。しかも、それらの多くには原文が収録されておらず、云ってみれば出処が曖昧などこの誰が訳したのかもわからない"名言"の日本語訳が延々と再利用され続けている、といった甚だ”不都合な真実”でした。

これはおかしい。というわけで私は、徹底して原文にこだわりました。インタビューにおける発言であればいつ、どこの媒体に掲載されものなのか? 演説であればいつ、どこで開かれたものなのか? 書籍からの引用は言わずもがなです。

こうした予備取材には膨大な時間とエネルギーを要しましたが、原典を辿ることで見えて来たことも多々ありました。誰もが知っている名言を、偉人たちはどのような状況下で発したのか? 時代背景は? そこからは偉人たちの素顔も垣間見えて来ました。要は、いかなる偉人であっても、私たちとさして変わらないひとりの人間であったという至極単純な事実です。結果的に拙著は、出典と原文を併記した我が国で唯一の就学児童向け名言集となりました。

 

和訳も私が自ら行ったため、他の名言集とは異なる表現となっているものもあります。例えば、札幌農学校(現・北海道大学)の初代教頭であったウィリアム・スミス・クラーク博士の名言に「少年よ、大志をいだけ!」というものがありますが、私はこれを「青年よ、大志をいだけ!」と訳しています。

この原文は ”Boys, be ambitious!” なので、直訳すれば「少年」でしょう。しかしながらこの言葉をクラーク博士が発したのは、札幌農学校の第1期生との別れの際と伝えられています。同校は明治 5年に布告された学制に則っているため、卒業生は少なくとも 20歳以上であったものと考えられる。米国人が (特に目上である教職者が) 生徒に対して “boy” といった言葉を用いることは決して珍しくはありません。しかしながらこの場合、生徒たちは明らかに「少年」といった年齢ではないため、訳語としては「青年」がより適切であろうと判断したわけです(参考までに昭和39年3月16日付『朝日新聞』の「天声人語」では、「青年よ大志をもて」と訳されています)。

 

   この作品の「まえがき」で、私は読者に向けて、

「名言の花束をあなたに贈ります。これらのことばが伝える英知に耳を傾けてみましょう。あなたにとって大切な何かが見つかるはずです。それは、あなたのご両親や兄弟、先生やお友だちとは異なるかも知れません。それでも構わない。あなただけのことばが、あなたの力となり、勇気となります。そして数10年後、あなたの発したことばが、この本に載ることを著者である私は信じて疑いません。これまで6,000億の中のたったひとつの命が、人々に幸福をもたらし、人類を救って来ました。あなたにそれが出来ないと、誰にも言う資格などありません。ちっぽけな命だからこそ、輝きを増します。大切な命を最大限に活かし、幸せのありかを探し当て、そしてあなたの名言を残して下さい。私たち人類のために」と、綴りました。

この6,000億という数字は、この地球に存在したと推定される人類の総数です。そう。子どもたちは私たちの宝であるだけではなく、希望です。ただひとつ確かなこと。それは未来の偉人たちは、誰でもない彼らの中から生まれる、ということです。

 

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