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   音楽は、街に潤いを与えます。リズムは、街に活気を与えます。と、誰もがわかってはいるものの、実現させるとなればなかなか簡単には行きません。私が幼い頃に比べれば、ストリート・ミュージシャンの数は格段に増えました。しかしながら、ただミュージシャンが街角で音を奏でていれば良い、というわけではありません。当然のことながら演奏=表現の自由は守られるべきですが、レベルの低いパフォーマーに声を張り上げられても、騒音にしかなりません (カラオケも、マイクを握っている分にはご機嫌ですが、店外に漏れ出る音はどうにも頂けませんね)。また、昔ながらの商店街の有線放送も、今となっては必ずしも街の雰囲気作りに寄与しているとは言い難い。

 

そんな息が詰まりそうな都市空間に風穴を空けようと、例えば東京都の大道芸ライセンス制度「ヘブンアーティストライセンス」や仙台市の「まちくるパフォーマーズ仙台」、名古屋市の「名古屋APPLライセンス」のように、指定の場所と時間に限ってアーティスト活動を許可する制度を設けている自治体もあります。ただ、音楽の”お”の字も知らないお役人によって選抜されたパフォーマーにどれだけの魅力があるかは、推して知るべしでしょう。

   また、生演奏を提供し、ミュージック・チャージ制を導入しているレストランやカフェなどでは、通行人にタダで聴かせるわけには行かないため、防音設備を施すなど何ともせせこましい。言葉は悪いけれども、ケツの穴が小さいことこの上ない。もっと市民や観光客に開かれた自由でおおらかな音楽環境は作れないものでしょうか。

 

   そこで提案です。地方自治体の中には、商業地域のセットバックを行うことでスペースを確保し、公道に面したレストランには飲食が可能なオープンテラスの使用を認める施策を行っている地域もあります。つまり市民の共有部分であるところの歩道の「一部利用」を認めているわけです。であれば、店側が提供するエンターテインメントも「一部共有」としても良いのではないか。

 

   パフォーマーの選択権は、当然のことながら店側にあります。各店舗はクラシックでもジャズでもポップス、演歌でも、それぞれのニーズにマッチした音楽ジャンルから、音楽に精通したオーナーのお眼鏡に適ったミュージシャンを起用する。と、ここまでは一般的なライヴハウスと同様のコンセプトですが、一歩進んで演奏自体は店内、つまり私有地内としながらも、敢えてオープンハウスといった形態を採用することで、街路にも音が流れ出るように工夫する。

落ち着いて飲食をしながら音楽を楽しみたい顧客は、店内でミュージック・チャージを支払う。一方、通りすがりの市民や観光客は、音楽が気に入れば”投げ銭”する、といった敢えて公私の「境界線」を曖昧にしたシステムです。

 

音響を工夫しさえすれば、店の前に来れば音楽が聞こえ、通り過ぎれば音が遠くなる、といった空間設定も可能でしょう。こうすれば、通行客は次から次へと様々なジャンルの生演奏を楽しむことが出来、嫌であれば立ち止まらなければいい。お気に入りのサウンドを耳にすれば、「中に入ってグラスを傾けながらじっくり聴こうじゃないか」ともなるでしょう(集客効果アップ)。新型コロナウイルスが未だ終息の兆しを見せない今だからこそ、オープンハウスといったコンセプトは理に適った”処方”だとも云えます。

 

オフィス・シェアリングにカー・シェアリング、タイム・シェアリング等々、昨今はSDGs(持続可能な開発目標)の影響により、シェアリング・エコノミー(共有型経済)が注目を集めています。その体で云えば、これは私の造語になりますが、さしもの”ミュージック・シェアリング”といったところでしょうか。良質な音楽を市民や観光客が分け隔てなく共有する。そんな街づくりが出来れば、自然とポジティヴな発想も生まれて来るのではないでしょうか。このブログをご覧なって下さっている市町村議員の皆さん、身近なあなたの街で試してみてはいかがですか?

 私が抱く”ミュージック・シェアリング”のイメージは、言葉で説明するよりは動画を観て頂ければ一目瞭然。こんなお店が街角に幾つもあれば、どれだけ幸せな気持ちになれることでしょう。というわけで、まずはこちらの動画をお楽しみ下さい♪

 

セルジオ・メンデス & ブラジル’66が放った世界的ヒット曲『マシュ・ケ・ナダ』(Mas, Que Nada)のカバー。こちらはブラジル連邦共和国サンパウロのローカル・ミュージシャンたちによるジャム・セッションの様子です。この緩〜い雰囲気が堪らない! 何と云ってもロレーナ・ガラッティさんの伸びやかな歌声が心地良い♪ こんなお店があれば、毎週でも通い詰めたいと思うのは私だけ?

こちらはバスク系の血を引くフランス人歌手マヌ・チャオさんがスペイン語で歌う『Me Llaman Calle』(2007年)です。この曲は、スペイン王国マドリードの街娼たちの生き様を描いた映画『Princesas』の主題歌としてヒットしたリズミックなバラード。政治活動にも積極的に関わっているチャオさんだけあって、女性セックス・ワーカーたちのための権利保護団体”Colectivo Hetaira”に捧げられたこの作品が「未知の世界への門戸を開いてくれた」と語っています。このPVも飲み屋街のバールで歌うといったドキュメンタリー・タッチですが、こんなバールがあれば、毎晩でも飲んだくれたい♪